ドバイ国際映画祭…旅先での出会い

 昨年末、アラブ首長国連邦(UAE)で開催された第10回ドバイ国際映画祭(2013年12月6日-12月14日)に参加した。3年連続で訪れているが、一時期のドバイ・ショックも何のその。行く度に新たな建物がお目見えし、経済発展は目覚ましいものがある。特に今回は2020年の万国博覧会開催決定直後とあって、街は早くもお祭りムードだ。ますます世界の目が注がれる街で、商機を懸ける日本人がいる。恐らく、日本人初となるアバヤ・デザイナーの岩田健(たけし=32)さんだ。

 アバヤはアラブ地方の民族衣装。家の外で女性がボディーラインや肌をさらすことを良しとしないイスラム圏において、全身を黒装束で覆う外とうだ。ドバイはイスラム教を国教としているとはいえ、自国民が2割を切り、観光客も多いため戒律はあまり厳しくはない。それでも、地元の女性たちの多くはアバヤを着用して外出する。一見、単なる黒い布をまとっているかのように見えるが、細かい刺しゅうが施されていたり、シルエットも異なり、デザインは千差万別。それぞれが、独自のこだわりを持っておしゃれを楽しんでいることが分かる。

 岩田さんも、そこに魅力を感じたようだ。「初めはアバヤに偏見がありました。女性たちが強制的に着させられているのではないか?と。ブルカという顔を覆うベールまで着用すると、ほとんど目しか見えない女性もいますからね。そんな彼女たちを明るくさせる服を!と思い参入したのですが、現地の方と触れ合うにつれ、自国の文化を守ろうとする彼女たちの意思の表れであることを知りました」(岩田さん)。

 実は、日本とアラブの民族衣装の関係は深い。男性が着用している真っ白な民族衣装「カンドゥーラ」の生地は、東洋紡(本社・大阪)やシキボウ(同)といった日本製が中心だ。しかしデザインや縫製となると地元の人たちが中心。しかし岩田さんはスタイリストやアパレル関連企業に勤務した経験を生かしてデザインし、日本で縫製したアバヤをドバイに持ち込んでいる。「縫製など細かい作業は、日本人の方が仕事が丁寧で奇麗。ジャパンクオリティーがウリです」。

 そしてデザインには、日本のカワイイ文化を取り入れた。胸元の大きなリボンや、袖口にピンクの水玉柄を施しており、ゆったり優雅な大人向けデザインが多いアバヤの中では異色を放っている。狙うは、ファションに敏感なドバイ・ギャルだ。「今後は、日本の染め物やプリント技術を活かしたデザインを考えています。アバヤの概念にとらわれないものを作りたい」(岩田さん)。

 12年に50着用意したアバヤは、ドバイ市内2店舗のブティックに置かれ、うち42着(13年12月現在)が売れたという。正直、ビジネスと呼ぶにはまだ厳しい。それでも英語もアラビア語も話せず、チョンマゲ頭と下駄、そしてド派手な羽織袴姿をトレードマークに、今後成長が見込まれるイスラム市場に自ら切り込んでいった無鉄砲なまでの度胸と先見の明はアッパレだ。

 副産物もあった。このほど、京都市内のホテルに就職し、広報と営業を任されたという。京都市では今、さらなる国際文化観光都市を推し進めるべくムスリム(イスラム教徒)の勉強会を設けるなど誘致に力を入れている。岩田さんが肌で体感した経験が生かされそうだ。

 「日本ではまだまだイスラム教徒というと、危険な人たちというイメージが強い。その悪い印象を払拭できれば」(岩田さん)。

 岩田さんの挑戦は続く。(中山治美)

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