温故知新なマヒナスターズのベスト盤 レコ大受賞曲が入らなかったワケ

 ヒット曲を多数持つ歌手やグループの「ベスト盤」とは何ぞやということを考えさせれられるアルバムが今夏、リリースされた。

 1950年代後半から60年代(昭和30~40年代)にかけ、日本初の歌謡コーラスグループとして数多くのヒット曲を世に出した「和田弘とマヒナスターズ」のデビュー60周年記念ベスト盤「マヒナと魅惑(ムード)の宵」。全43曲の2枚組なのだが、“この1曲”というべき代表曲、松尾和子をゲスト・シンガーに迎えて累計300万枚を超える大ヒットとなり、60年の第2回日本レコード大賞を受賞した「誰よりも君を愛す」が収録されていない。選曲した2人のプロデューサーにそのこだわりを聞いた。

 “オトナの歌謡曲プロデューサー”の肩書を持つ佐藤利明(52)と、新生マヒナスターズに2002年に加入した最後のメンバー“田渕純”ことタブレット純(41)。ともに全盛期をリアルタイムで知らない世代である。

 佐藤は「(和田弘は)日本のフィル・スペクター(※唯一無二の音世界を生み出した米国の天才プロデューサー)みたいな人。今回のマヒナのCDはベスト盤というより、レアリティーズ。新たな発見がある」という。

 “レアリティーズ”とは、音源化されなかった隠れた名曲、有名曲でも別テイクなどを取り入れたアルバムで、歌謡曲より、ロックやポップスで浸透している。ビートルズやローリング・ストーンズをはじめ、日本では山下達郎がこの言葉をタイトルにしたベスト盤を02年にリリース。シングルのカップリング曲(レコードの時代ならB面)、CM曲、未発表のカバー曲などを自ら選曲していた。

 つまり“ベスト盤”といってもヒット曲を単に羅列した回顧趣味ではなく、過去の知られざる曲や別バージョンで新たな世界観を再構築した“温故知新”で“再発見”のあるコンセプト・アルバムということになる。今回のマヒナのベスト盤もそれに当たる。結果的に“レコ大受賞曲”が入っていなくてもノー・プロブレムなのだ。

 74年生まれのタブレットは小学生の時からラジオでマヒナを聴き、中古レコードをあさった。当時は80年代半ば。世間ではとうに“懐メロ”でも、彼にとっては初めて聴く曲が新鮮だった。「生まれる前の昭和の空気感が曲に詰まっている。“風のコーラス”と表現された温かみのあるコーラスであったり、“ムード歌謡”というジャンルにとらわれない魅力があります」。

 タブレットが田渕純としてリードボーカルを務めた新生マヒナスターズの「公園の手品師」(02年)も特別収録。和田の急逝により商品化されなかった幻の音源だ。「マヒナは僕の原点。集大成となるものを出せて感慨深いです」と語る。

 ちなみに半数近くの21曲が初CD化音源だ。例えば「トコ、とんかつさん」(57年)という不思議なタイトルの曲は「とんかつになる運命の下に生まれた“とんちゃん”を哀感あふれるタッチで歌った世紀の珍曲」(ライナーノーツでの佐藤解説)で、当時も知る人は限られていただろう。再発見でなく“新発見”がそこにある。

 そういった選曲の過程で、誰もが知る「誰よりも君を愛す」は結果的に入らなかったわけだが、同曲が発売された59年に生まれた和田弘の長男・弥一郎は感謝の思いを語る。

 「純さんが入った新生マヒナで頑張ろうとした矢先、永眠したオヤジには無念さがあったと思う。自分のことより人に気を遣う人だから、若い純さんを路頭に迷わせてしまったと。純さんもつらい思いをしながらマヒナを思い続けてくださった。天国のオヤジは間違いなく心の底から喜んでいると思います」

 ジャケットのイラストはフリーアナウンサーの吉田照美(65)が描いた。“ベスト盤”という名の“新譜”には、時代を超え、40、50、60代の3世代にわたる思いが詰まっている。=文中敬称略=

(デイリースポーツ・北村泰介)

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