【8】いるだけで強くなるチーム岡本

 「藤井かすみのよもやま話・第8回=師匠 岡本綾子さん2」

 私が岡本さんのプレーで強く印象に残っているのが、97年に富士C塩河C(現・東建塩河CC)で行われた日本女子プロ選手権のことです。この試合、私は予選2日間を岡本さんと同組でプレーしました。岡本さんは体調が思わしくなく、2日目の最終18番パー5を迎えた時、カットライン上にいました。

 岡本さんはティーショットを曲げてトラブルとなり、2打目はフェアウエーへレイアップ。しかし、グリーンまではまだかなりの距離が残り、しかもグリーン手前には大きな池も広がっていました。

 3打目を打つ前に岡本さんが私に「藤井?カットラインいくつだと思う」と聞きました。私が「岡本さんのスコアの)5オーバーだと思います」と答えると、岡本さんはさっと短いクラブを手にして3打目を池の前に刻んだのです。そして4打目をピンそば1・5メートルにピタリとつけてパーセーブ。結局、後続組のスコアも伸びなかったため、予選通過を果たしました。

 この光景をそばでみていた私は、岡本さんの刻むことにもなんの躊躇(ちゅうちょ)もしない、その潔さに「なんてかっこいいんだろう」と思いました。刻んだショットを見て「男らしい」と思ったのは後にも先にもこの一度だけです。岡本さんからはいつも「藤井、ゴルフは決断と実行よ」と教えてもらっていたんですが、まさにその言葉を象徴するシーンでした。

 現在、岡本さんの門下生には森田理香子さんや若林舞衣子さん、表純子さんらがいます。「チーム岡本」にいるだけで、強くなった気分になれますし、国内外で通算62勝も挙げた偉大な選手の話を身近に聞けるわけですから、こんなに恵まれた環境はありません。

 しかも、岡本さんは選手から指導料といったお金は受け取らず、自ら交通費や宿泊費を使って試合会場に足を運んでいるのです。岡本さんに出会えなければ、今の私はなかったですし、森田さんだって岡本さんがいたからこそ賞金王になれたんだと思います。門下生はみんな、岡本さんに足を向けて眠れません。(プロゴルファー)

 ◆藤井かすみ(ふじい・かすみ) 1967年11月30日、山口県岩国市出身。広島・安田女子高時代からソフトボール選手としてならし、東京女子体育短大時代は全日本大学選手権で優勝し、日本代表にも選出。23歳からゴルフを始め、95年にプロテスト合格。01年ベルーナレディースで初優勝を飾り、ツアー通算10勝をマーク。師匠は岡本綾子。夫は競輪選手の高橋健太。現在は兵庫・マスターズゴルフアカデミーでジュニアらを指導。162センチ、64キロ。

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