五郎丸 フランスでの心境 「日本で経験できないことをたくさん味わえている」

 昨年のラグビーW杯での大活躍で日本中にラグビーブームを巻き起こした五郎丸歩(30)。トップリーグのヤマハ発動機を退団、スーパーラグビーの豪州レッズを経てフランスのトゥーロン移籍後は、なかなか肉声を聞けない。その五郎丸が、フランスリーグ初先発フル出場を果たした11月13日のパリ戦後、単独インタビューに応じた。日本代表で世界を驚かせ、個人としても世界に挑戦する五郎丸の貴重な肉声をお届けする。(取材・構成=大友信彦)

  ◇  ◇

 -フランス初先発のパリ戦は80分フル出場。9月上旬に渡仏してから約2カ月。どんな時間だった。

 五郎丸「ネガティブな感覚になることはなかったです。むしろ充実していた。試合のジャージーを着たいという思いでひとつひとつ積み重ねていたし、焦りはまったくなかった」

 -出られない間は、どういうことに重点的に取り組んできたか。

 「普段と変わらないです。全体練習が終わってから、コーチとエキストラでパスやキックの練習をしたり。もちろん、試合に出たいし、自分の武器であるキックを前面に出していくトレーニングもしていました。ここでは全体練習の時間が少ないんです。シーズンが長い(8月に開幕し、翌年6月に閉幕)し、選手一人一人が成熟しているので、自分のことは自分で高める。みんな、自分でエキストラメニューに取り組んでいます」

 -改めて、フランスに来た理由を。

 「世界有数のトップチームから誘われたのは光栄なことですからね。断る理由はなかった。家族も一緒に行けるし、失うものはないと思いました」

 -レッズ時代より体が一回り大きくなったのでは。

 「そんなことないですよ。体重もあまり変わってないと思う。ただ、(5月に負傷した右肩鎖関節脱臼の)リハビリをしっかりやって、体をケアできたのは良かった」

 -メンタル面もリフレッシュできた。

 「レッズに行ったときはW杯からトップリーグとずっと休みなしで、内から湧き上がってくるものがなかった気がする。5月にけがをしてからは、4カ月以上もラグビーをできなかった。こんなにラグビーから離れたのは中学生以来かもしれない。大学2年であごを骨折したときも、3週間くらいで試合に復帰しましたからね。完全にスイッチオフできる時間があったのは良かった」

 -トゥーロンというチームの印象は。

 「世界中のスター選手が集まっていますから。ラグビー選手としてだけでなく、人間的に成熟した人がたくさんいて、勉強になることが多い。周りの人が何か困っていそうなときに、スッと自然に話し掛けたり、サポートしたり。ファンへの応対も含めて、一流選手はどこをとっても一流ですね。この選手の中で過ごす時間は、練習だけでもものすごい経験になる」

 -トップ選手と一緒に練習して学ぶことは。

 「基本の大切さですね。FBにはウェールズ代表のハーフペニーもいますが、特別なことをするわけじゃなく、当たり前のことを当たり前にこなしていく。僕も身体能力が高いわけじゃないし、いい見本になります」

 -トゥーロンでの生活は。

 「生活しやすいですよ。英語も通じないけれど、それがかえって新鮮(笑)。アジア人はほとんどいないから目立つし、町で声をかけられるけど、家族と一緒のときはそっとしておいてくれる。ファンも成熟していると感じます」

 -レッズ入団発表のときは「失敗したい」と言っていました。

 「失敗しないと成功もない。というか、僕は(海外に)出た時点で成功だと思っている。うまくいかないことがあっても失望はないですね。日本の人は『レギュラーでなきゃ』『キッカーでなきゃ』と思うだろうけれど、日本では経験できないことをたくさん味わえている。幸せです」

 -今後の目標を。

 「何もイメージしてないです。目の前のことをしっかりやっていくだけ。19年W杯のことも何も見えていない。今は日本ラグビーを背負わずに、自分のことに集中しています。個人として世界で戦えるなんて、誰でも経験できることではないし、チャンスがあるならやるだけ。年齢的にもラストチャンスと思ってここへ来たわけですから。それに、ここでは想像もつかないことがいっぱい起こる。試合への移動手段にしても、いきなり飛行機をチャーターしたり、市内のバス移動を白バイが先導したり…。そういうのにいちいち驚いていたらやってられない。考えすぎても意味がない。だから、目の前のことを全力でやるだけなんです」

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