川内的視点で見る福士の「名古屋」出場

 リオデジャネイロ五輪の女子マラソン代表選考が揉めている。1月の大阪国際女子マラソンを福士加代子(33)=ワコール=が日本歴代7位の2時間22分17秒で制し、日本陸連の設定記録(2時間22分30秒)を突破。レース後のインタビューで「リオ決定だべ!」と叫んだが、その後、日本陸連から「確定」を示唆する言葉がなかったことを理由に、最終選考会となる3月の名古屋ウィメンズ出場を表明した。

 22日には陸連の麻場一徳強化委員長が「出ることは避けていただきたい。本番に向けメダルを目指す盤石の態勢を整えてほしい」と、異例の要望を出したが、25日には名古屋に一般参加選手としてエントリーしたことが発表された。

 選考基準上で、設定記録の突破はあくまで「優先事項」。たとえ日本記録を出しても、「内定」にはならない。名古屋で福士を上回るタイムを2人以上の選手が出した場合、わずかに落選の可能性がある。ただ、福士のタイムは、07年の野口みずき(東京国際マラソン、2時間21分37秒)以来9年ぶりとなる2時間22分30秒切り。名古屋の出場メンバーを考えれば、逆転される可能性は限りなく低いと見られる。

 前代未聞の五輪有力選手による“強行出場”。この問題について、ワイドショーも取り上げるなど世間的にさまざまな議論がされる中、興味深かったのが、“最強市民ランナー”川内優輝(埼玉県庁)の視点だ。波紋を呼んでいる福士陣営の選択について「全然問題ない。逆に福士さん以外の選手が疲れると思う。天候が悪ければ出なければいいし、ペースメーカーを無視して飛ばして、途中で辞めてもいい。すべて福士さんの手のひらの上で操られている」と、高度な“心理戦”と分析した。

 なるほどその視点で見ると、福士側にはほぼメリットしかない。「福士さんの一挙一動に神経をすり減らさないといけない。福士さんのスピードについていくのか、いかないのか。精神的に弱い選手はオーバートレーニングで出てこれない可能性もある」と川内が話すように仮に出場しなくても、他の選手に重圧を掛けることで、ただでさえ少ない逆転される可能性を限りなくゼロに近づけることができる。一般参加ということもあり、状態が上がらなかったり、天候の悪化が予想される場合、あっさりと欠場することも可能だ。

 また出場すれば、さらにキャスティングボードを握ることが可能だ。他の選手は五輪に向け、福士を上回らなければならない意識が働く。先頭集団でペースを握ればもちろん、集団の後方につけるだけでもプレッシャーを掛けることができる。その上、無理に完走する必要もない。

 大阪から中40日での参戦への負担を気にする声もあるが、川内は「中40日空いてれば、全然問題ないですよ」と、一蹴した。川内自身のベストタイム2時間8分14秒(13年3月ソウル国際マラソン)は、前回のマラソンから中41日で叩き出したもの。「僕のベストもそうだし、高橋尚子さんは2週連続でフルマラソンに出ようとしたことがありますから」

 川内は同年の世界選手権では暑さを克服できず18位に終わったが、その1カ月前のゴールドコーストマラソンでは前年のタイムを3分以上縮める大会記録で優勝している。反動も感じさせなかった。

 となれば、この問題で本当に問われているのは、他の出場選手の底力だ。低迷する日本のマラソン界。何もレースだけが選考会ではない。過程において、日本代表を背負うだけの心の強さを身につけることも、本番で結果を残すためには重要になってくる。川内は「他の選手にとって福士さんが出てくることは、すごいプレッシャーだと思う。でもそういう重圧がないと五輪代表にはなれない。一発屋みたいな選手を振り落としてくれる」と、現状を歓迎した。

 さまざまな思惑が飛び交う中、福士に次ぐ、いや福士を超えるようなヒロインは誕生するか-。決着は3月の名古屋。リオ切符を巡る女の戦いが風雲急を告げる。(デイリースポーツ・大上謙吾)

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