ソフトB工藤監督は“鬼に金棒”の監督

 今年の野球殿堂入り顕彰者が18日に発表され、競技者表彰でソフトバンク・工藤公康監督(52)が選出された。プロ通算224勝、日本一11度という選手時代の功績が評価されてのものだが、監督としても就任1年目の昨季いきなり日本一に輝いた。昨年12月、そんな工藤監督の指導論を聞く機会に恵まれた。東京都高野連の指導者研修会に招かれ、講演を行ったのだ。

 講演を取材した第一印象で「これはもう『鬼に金棒』だな」と、うなってしまった。とにかく、知識量がハンパではない。そして、それを技術向上につなげるための方法論がわかりやすい。実働29年の経験、飛び抜けた実績を持っていたところに、科学的な理論まである。まさに『鬼に金棒』なのだ。

 思わず膝を打つ話も多かった。たとえば、上腕を強くするトレーニング。ダンベルなどの重りを持って手首をクイッ、クイッと曲げるリストカールがあるが、投手の場合、体の前で肘を曲げ、手のひらを上に向けて行うポピュラーな形は正しくないという。手を体の横に下げて、手のひらを背中側に向けた状態で行うのが正解。実際に投手がボールをリリースする時の、上腕と手首が内旋した状態でトレーニングをしないと、鍛える箇所が違ってしまうからだ。

 他にも「投球フォームが二重振り子運動に…」「腕橈骨筋(わんとうこつきん)を…」「体重移動には基本法と重力法があって…」など、さまざまな用語がポンポン飛び出した。工藤監督は14年から筑波大大学院に通い、スポーツ医学を学んだ。プロの球団ならもちろんトレーニングコーチがいるが、監督が自らこういった専門知識を身に付けている利点は大きいだろう。

 加えて工藤監督には、高いコミュニケーション能力がある。以前は高校野球番組でキャスターも務めていた。指導者研修会では、専門的な用語をわかりやすく解説していた。時にはジョークも織り交ぜて笑いを誘うなど、軽妙な話術もある。

 指導で心がけるポイントについては「まずは選手を知ること。大事にしたのはコミュニケーション。上から目線で話さない。指導する側は偉いわけではない」と挙げた。そして「指導者は選手に対して必ず説明の責任がある」と強調した。足りない部分はAだから、それを伸ばすための練習としてBとCのメニューでDの筋肉を鍛えると、ピッチングにつながる…そんな風に、丁寧に1つずつ選手に説明するという。

 現役時代、疑問点を指導者にぶつけても、納得のいく答えが返ってこないことも多く「自分自身で調べないと」と、研究を重ねてきた。超一流選手として培ってきた感覚や方法論に、科学的な裏付けが加わった。その指導の説得力はいうまでもない。

 普段取材する高校野球の現場でも、頭ごなしに「これをやっておけ」と指示するだけでは効果は上がらず、きちんと練習の意図を説明しなければ選手がついてこない時代になったという話を、指導者からよく聞く。工藤監督は「いい指導者になろうとは思っていない。人とちゃんと話ができる人間にはなろうと思っている。一人一人を見て、何が合うのか合わないのか。コミュニケーションが選手を救うと思っている」と言った。対話や説明を重視し、プロの世界で頂点に立った指揮官は、まさに最高のモデルといえるだろう。

 指導者研修会の後、東京都高野連の武井克時理事長は「技術の高さがあり、正しい知識を持っていて、人格者。ピッタリの人。最高の研修会ができた」と大喜びだった。工藤監督は「自分への戒めじゃないけど、自分に言い聞かせるように話をしているところもある」と明かした。

 殿堂入りするほどの実績と経験に甘えることなく、誰もが納得する科学的理論やコーチングの研さんにも人一倍の力を注ぐ。かつてないタイプの名将になるのではないか-。指導哲学の一端に触れ、そんな未来図を想像した。(デイリースポーツ・藤田昌央)

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