智弁和歌山・春野、新たな“大海”へ
「全国高校野球・1回戦、津商9-4智弁和歌山」(9日、甲子園)
立っていられないくらい、泣けて泣けて仕方なかった。でっかい体を二つ折りにしての涙の主は、「入った時は“やらされるタイプ”から、野球小僧に成長してくれたムードメーカー」(喜多隆志副部長)の、智弁和歌山(和歌山)の春野航輝内野手(3年)だ。
その野球小僧は津商(三重)戦の5点を追う九回裏、「絶対終わりたくない」と、強烈な右前打で味方の反撃を待った。しかし、後続なく初戦敗退。
大阪府泉南郡、和歌山との県境にある港町で生まれ育った。実家は定置網や釣り船を営む漁師。父・浩之さん(45)の手伝いで、漁や操船までこなした“海の子”で、名前の「航輝」にも父の思いが込められている。
学校と自宅は約1時間の電車通学。「乗り換えが多くて電車で眠れない」という春野の楽しみは、家での晩ご飯だ。
肉も好きだが、大好物は取れ取れの魚。近海であがった太刀魚など新鮮な魚と、大量のご飯で大きくなった。母・博子さん(45)は「買った魚は食べたことないんじゃないでしょうか。お米はお弁当と合わせると毎日一升ほど炊いてました」と笑う。
最後の夏はあっけなく終わった。「親孝行、できてない」とまた涙。誰よりも食べ、誰よりも泣いて大きくなった強打者は、プロ志望届を提出する方向。次のステージに、洋々たる大海が待ち受けている。