8番が強者になる兵法

 【6月13日】

 8番打者のスタンスがやや開いたように見えた。いや、見えただけで実際は京セラドームの6階の記者席からはよく分からない。ただ、狙いはこうだというものは伝わってきた。

 六回2死満塁のチャンスである。熊谷敬宥がオリックスS・ジェリーの初球を引っ張って三塁線を突破し、点差を4に広げた。ゲームの流れという意味でもあれが「決定打」になった。

 試合後、本人に真相を聞いてみた。

 初っぱなから内角のツーシームを狙っていたように見えた。熊谷は言う。 「1打席目はランナーがいない状況でアウトコースにきて(三振)、その前の打席もチャンスでインコースにきていたので(遊ゴロ)、あそこはもう開き直って引っ張ったろうかな、と」

 スタンスを開き気味にした?

 「トップの位置を浅くしたというか、さばけるようにしましたけど、目付けですね。絶対インコースにくるだろうなというのは打席の中であったので。そこで打てるポイントが自分の中であるので…。意識はしていました」

 こっちがちょっと寝不足で熊谷への質問、その口調がちょっともつれたけれど、彼はしっかり答えてくれた。

 なぜ、寝不足かって?

 そりゃ、もちろん…

 サッカーのW杯北中米大会が開幕した。京セラへ来る前にDAZNで2試合…。幸せな1カ月を堪能したい。

 幸せ?6月はこれだけ阪神が苦戦してきたのに??はい。昔からサッカー好きなので…。でも、阪神を取材する者としても特に不幸とも思っていない。そもそも、取材者が不幸感を煽るのはもってのほかだと思っている。

 パ・リーグは強い。そんなこと今にはじまった話じゃない。パの選手はセ相手に燃える。いや、気持ち以前に、投打ともパワーに差がある?野球評論家からそんなことをよく聞く。もしそうなら、来年以降、交流戦でセがパを圧倒すれば、「番狂わせ」といわれかねない。最終盤にセの意地を見たい。

 サッカーW杯は今大会も番狂わせがあるだろう。その視点でいえば、史上最大のそれは、前回大会でVのアルゼンチンを唯一破ったサウジアラビア。あの試合は痺れた。「へぇ~」と思ったのは、サウジ指揮官の弁である。

 「我々相手にメッシが高いモチベーションを保っていたと想像できる?」

 4年前のFIFAランクは3位と51位。ハイラインなど戦術も素晴らしかったが、サウジの監督はスーパースターの心のスキを突いた。それを「弱者の兵法」というかどうかは別にして、スポーツにはままあることだ。

 野球では仮に4番を強者と呼ぶなら8、9番は弱者か。しかし、その者が試合を決めることは珍しくない。それどころか下位が「強者」であり続けることができるのも野球の醍醐味。あの六回の場面、直前に7番木浪聖也が内角球でやられたが、続く熊谷は「開き直った」と言った。8番だから投手の心にスキが?満塁でそれはないだろうが、同じコースをやり返した格好だ。熊谷は強者になる術を知る。彼一流の8番の兵法。そう感じる。=敬称略=

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