「語る必要」のないもの

 【5月26日】

 巨人軍監督の阿部慎之助が職を辞した。新庄剛志が目の前の阪神戦で監督通算300勝を挙げた夜だけど、コラムを綴る者として球界を揺るがすニュースをスルーするのは健全ではない。

 日本ハムのエース伊藤大海に130球完封を許した試合後、藤川球児の会見を聞いた。特に取材制限などなかったが、「阿部辞任」にまつわる質問は出なかった。僕も聞かなかった。

 試合前に球団社長の粟井一夫が虎番の問いかけに「本件についてはコメントを差し控えさせていただく」と語ったそうだが、正しい反応だと思う。なぜなら、辞任の経緯が経緯であり、阿部の家族に及ぶ問題をはらんでいるからである。阪神幹部、監督として「残念」な感慨はあるに違いない。が、それ以上、何も語りようがない。

 世間を騒がせる不祥事が起こったとき、イラッとするのがポータルサイトに寄せられるいわゆるエキスパートコメントである。とりわけ、もっともらしい正義感を振りかざす類いは生理的にキツい…。セ・パ交流戦を翌日に控えた「決起会」で仲間とテーブルを囲んだ前夜、そんな話になった。

 「白々しいですよね」。後輩が直球で言うので頷きながら、でも「なぜ、わざわざここに提言を書き込むんやろ?」とたずねると、その彼は言う。

 「承認欲では?」

 社会浄化への熱意というよりオーサーとして利己アピールが先に立つ?博識ぶって論評するあんたはそんなに立派か?というやつね。ここで好き勝手書かせてもらうなら、あちこちへ首を突っ込む前に、まず「内省」…。いつもベクトルは自分へ向けていたい。首を突っ込む先が「よその家庭」ならなおさらだ。

 巨人軍の監督が長女への暴力容疑で逮捕された25日夜の一報は確かに驚いた。デイリースポーツもてんやわんやで、東京本社では記者とカメラマンが渋谷署で深夜まで取材を続けていた。この日の夕方、都内でオーナー山口寿一が会見に応じ、「暴力は許されないことであって監督を続けることは許されない」と語っていたそうだが、個人的には残念でならない。

 阿部のプロ入り時からこの仕事をしている。現役時代も球場で会えばいつも挨拶されたし、礼儀正しく好青年の印象が強かった。多面的に見なければならないが、次のように綴った娘さんが噓をついているようにも思えない。

 【殴る、蹴るなどといった事実はございませんでした】【父はいつも陽気で、私とはだじゃれを言い合い、笑い合う仲で、一緒に食事に出かけるなど通常の家族として交流しています】

 僕も子どもを持つ身。父親として内省することも多いけれど…。阿部の娘さんが「相談した」という「チャットGPT」をうらめしく思ってみたり。

 巨人の監督がこんな形で退いた前代未聞のニュースは無視できない。が、これに踏み込んで書くつもりはない。一家庭の問題をどの立場で評するのか…という思いもある。メディアだから書け?いや、知る必要、語る必要がないものもある。=敬称略=

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