シドニー湾の取材後記
【12月19日】
豪華クルーザーのデッキで赤星憲広と2人、結婚観を語り合った。陽光が水面でキラキラ、見渡す限り水平線。あのとき、あの空間だから、シーズン中はできないトークをしたくなった。
03年の優勝旅行である。理想の結婚…なんて球場で聞くことがないのでレアだったが、互いに身を固めた今も会えばあの頃の話に花が咲く。
星野政権はオーストラリア。岡田政権は05年も23年もハワイ。藤川阪神は今まさにワイキキを堪能中だ。
赤星と僕がシドニー湾を眺めたのはもう22年も前の話だから、若い読者は「5年連続盗塁王」を映像でしか知らないと思う。当時を取材した者として「伝説の足」はずっと語り継ぎたい。そう思ってこの機会に綴ってみる。
「足にもスランプあるんですよ」
シーズン61盗塁の赤星がそう言ったのでちょっと驚いた。シドニー港、ポートジャクソンを発って1時間ほど。のんびり流れる時間の中で難しい話はしなかった。当時は「そうなんだ」としか返さなかったけれど、さすがにあの年はスランプなどなかったのでは?勝手にそう思いながらやり過ごした。
でも、のちに気になって本人に確かめたことがあった。
シドニーの海原で「足のスランプ」の話をしていたけれど、03年は一度も盗塁の「トンネル」を経験しなかったのか。そんなふうに聞けば、赤星は丁寧に教えてくれた。
「03年は盗塁のスランプとまでは感じたことはなかったですけど、金本さんがチームバッティングに徹してくれてましたから何とか早いカウントで行かなければということを考えていて。ただ、相手も警戒度が増していて、なかなか早いカウントで行けないときもありました。でも、そういうときに金本さんが打ちに行ってくれたりして、『カウントを取りにいくと金本が打ってくる』という流れを作ってくれたりしたので、また早いカウントからスタートしやすくなりました。その繰り返しだったのを覚えていますね」
2番の赤星が塁に出ればサインはグリーンライト。3番の金本は赤星がスタートを切りやすいように待球することもあったが、スタートを躊躇すれば金本がカウントを悪くしてしまう。そんなプレッシャーが重なれば、逆にスランプにもなりかねないか…。そんな想像も膨らませていたが、そこは両者のあうんの呼吸と技術の高さでうまく循環していたのだとか。
さて、このオフ指揮官の藤川球児は「25年につくったチームを壊して26年にいく」と語っている。気の早い僕は球児がハワイでどんな腹案を練っているのか気になる。「壊す」ということは、当然オーダーも白紙にするということ。何も決まっていない中で注目したいのは来年、赤星が記録した「5年連続盗塁王」を期す近本光司の打順である。さすがに1番を外すことはない?いや、2番もある?いずれにしても近本の後ろを担う打者との呼吸は見もの。他球団の警戒度が間違いなく増す中で近本の足を目いっぱい活かせる並びを球児はどう考えるか。=敬称略=
