嫌らしい木浪の四球
【6月28日】
中日捕手の石橋康太はボールを地面に叩きつけてしまった。阪神三回の攻撃、無死一塁から木浪聖也が四球を選んだ局面である。このボール判定、この四球がよほど悔しかったのか…いや、違う。
一塁走者の梅野隆太郎がスタートを切っていた。木浪はフルカウントから柳裕也の変化球を見た。際どい球だったけれど、しっかり見極めた。おそらく石橋は捕球した瞬間にストライク=見逃し三振と判断し、二塁送球を試みたが、球審の判定は「ボール」。四球なら送球する必要がない。耳からの情報が咄嗟に体へ伝達し切れないことはよくあること。送球があらぬところへ転がったのはそういうことだが、ボールを叩きつけたくなるほど悔しい四球になったことはきっと間違いない。
この日、球場外で狩野恵輔と会う約束をしていた。色んな話をしたけれど、狩野が現役だった頃、ときにメシを食べながら、ときにコーヒーを飲みながら野球談議を交わしたことが懐かしくなった。
梅野のスタート、木浪の選球…狩野もこの一連のプレーを見ていたが、石橋の叩きつけた送球は、咄嗟に送球をやめようと?
「たぶんそういうことでしょ」 狩野はそう言った。捕手心理の語り口はいつも面白いものだが、狩野がユニホームを着ていた時代よく「中日には相手が嫌がることをする選手が多いです」と話していた。彼が頭角をあらわした頃といえば、落合博満率いる中日の黄金期だった。そういえば、当時の4番、金本知憲も同じ類いのことを語っていた。「中日には、嫌らしい走塁をする選手が主力で何人もいる」。確かに、そうだった。 そして、両者はともにこんなことも話していた。「中日は四球の数が多い」。この発言はよく覚えている。中日がリーグ優勝した06年の四球の数を振り返れば…
①中日=454
②阪神=433
③ヤクルト=379
④巨人=349
⑤横浜=340
⑥広島=282
中日がリーグ2位から日本一を勝ち取った07年も…
①中日=538
②阪神=428
③巨人=390
④ヤクルト=384
⑤横浜=373
⑥広島=367
チームが選んだ四球の数はダントツで中日がトップだった。
ちなみに、この2シーズンの阪神は岡田彰布が率いていた。竜には及ばなかったが、選球に優れた選手は多かった。
さて、この夜の岡田阪神は7つ四球を選んだ。相手の嫌がることでいえば、三回の木浪の四球ほど柳-石橋バッテリーにダメージを与えたものはない。猛打賞も光った背番号0だけど、やはりあの選球、あの繋ぎが流れを呼び込み、ビッグイニングをを決めたといってもいい。再び首位に立った阪神の247四球はセ・リーグ最多。ちなみに中日は139四球。リーグ最少である。=敬称略=