真実はどこに… 

 【10月10日】

 病棟で何度も着信音が鳴った。入院していた母をもう自宅に帰そう。僕のそんな判断で退院の手続きをした一昨日のことだ。スマホを見る度、関係者の名が…。

 えてしてこんな時に、である。これまで、球団が公に動かない土日を当欄の休載日に充ててきた。が、今回は家族の用件で金曜に休みをいただいたわけだが、そんな日に限ってコトが起こる。

 ただただ電話に追われ…退院が一段落してから一件一件折り返した。間もなく速報が流れ、阪神球団社長・揚塩健治の会見、続いて同オーナー藤原崇起の囲み取材…その要旨を虎番が送ってくれた。

 一言一句、両者の言葉を読んで感じたことを書けば、〈真実は語られていない〉ということだ。また、両者がそうせざるを得ない奥の奥の事情があったことも取材を進めれば分かってくる。

 今月7日、僕は大阪・野田界隈へ出向いていた。行き先は阪神電気鉄道株式会社、言わずと知れた阪神タイガースの親会社である。正確に書けば、本社の社屋までお邪魔していない。そうせずとも、辺りを歩けば馴染みの顔が目に入ってくるのだ。取材の限り、揚塩は同日、ここにいた。辞任、いや〈解任〉会見の2日前である。

 揚塩は9日の会見で「私の一存ではございますが…」と語っていた。つまり、自らこのシーズン途中のタイミングを選び、藤原に辞任を申し出て、これを藤原に承諾された。そう説明したわけだが、果たして真実だろうか。

 タイガースには、目下タイトルを争う者。復活を期す者。コロナ余波の責任を痛切に感じる者がいる。そして最後まで首位に食らいつくチーム…。シーズン終了まで1カ月。26試合を残すタイミングでの引責会見が「適切」だと仮に揚塩自らが判断したなら、「チームファースト」を信念とするトップとして失格だし、そもそも不適格者だったと言わざるをえない。

 コロナだけが引き金じゃない?とってつけた物言いは白けるだけである。「チームの責任を取って私が」と、いま引責することでチームに及ぶ〈悪しかない〉影響に心を寄せられない最終責任者だとすれば、揚塩が在籍した3年間は悲劇の時間だったことになる。

 これが野田主導の肩叩きならば…。それとも、芝田一丁目の…。

 意図的に持分法適用関連会社のメディアの取材に応えたとは思わないけれど、阪急阪神ホールディングス(HD)会長・角和夫の紙面を介したメッセージで野田が動揺したとすれば、同HD傘下の親会社は一度、現場の真相をヒアリングするべきである。もし、そんな深慮を馬鹿馬鹿しいと嘲笑する役員が大勢を占めるならば、阪神タイガースは不幸でしかない。そうでないことを願うばかりだが。

 この〈トカゲのしっぽ切り〉を世間はどう見るだろう。例えば次回の株主総会で「ベストタイミング」「ようやった」と称えられるのか。まだまだ取材は及ばないけれど、この幕引きを眺めるにつけ前監督の解任劇を思い出したのは当方だけだろうか。=敬称略=

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