生き物の死にざま

 【3月31日】

 東京都東村山市諏訪町…当方の第2の故郷である。東京であって東京でない。大都会の喧噪を離れのどかな田園風景が広がる23区の外。八国山を挟んだ隣町は埼玉県所沢市。幼心はいまも薄れない。

 庭先きゃ多摩湖 狭山茶所 情が厚い 東村山四丁目 ソレ…40余年前、町は『東村山音頭』を口ずさむ子どもたちで溢れていた。ちょっとしたお出掛けといえば駅前のヨーカドー。夏の楽しみは西武園の花火大会…みんなに自慢できる思い出はあまりないけれど、ライオンズ帽をかぶった当方が、よそで「東村山」を語れば、必ず友達からこういわれた。

 「あぁ~、志村けんの…」

 まったく面識がないのに、このショックは何だろう。勝手に身近に感じていた国民的コメディアンの逝去。寂しい気持ち…いや、言葉にできないほど怖くなった。

 「怖い」といえば、阪神タイガースの例の一件である。「選手の安全」を担保するために奔走してきた球団フロント陣とは随時「取材」というコミュニケーションをとってきたつもりだ。いま、矢面に立つこの人はおそらく、心身の疲弊が当方の想像以上だと思う。 球団本部長・谷本修である。

 反省も、怒りも、やるせなさもあるだろう。眠れぬ夜が精神をむしばんでいるはずだけど、この日も谷本は甲子園球場併設の球団事務所で職務と向き合っていた。

 事務所は平時よりもかなり静かだ。我々は内部を伺い知れないがタイガースの緊急事態に、連日業務に勤しむ球団職員がいる。谷本はそんな〈闘士〉に最敬礼し、いま一度、もう一度、〈チーム再建への途〉を探っている。

 この間(かん)可能な限り「取材」を続けている。大阪府知事や兵庫県知事によれば、先日2府県民に自粛要請が出た「不要不急の外出往来」に「仕事」はあてはまらない。こういうときだから、ネタを探す〈楽しみ〉もある。

 取材対象者と外気の触れるカフェテラスでお茶…まだ寒いけれど「距離を置かんとダメですね」とそこは互いに意識を高く。「いまウイルスはどこに潜んでいるかわからない」と、警鐘を鳴らした神戸DF酒井高徳の言葉をきょうも噛みしめながら過ごす。

 読者の方には申し訳ないが、阪神ファンの関心事を原稿にできるまで取材しきれていない。ただ、例の件を7割ほど(?)取材した者からいわせてもらうなら、ネット等で広まる噂は真実でない。

 「記者の方々の熱心な取材に基づく事実、できれば、一般の人が知り得ない真実が書かれている記事は読みたくなります」

 毎朝、スポーツ紙、一般紙に必ず目を通す谷本に聞けば、そんなふうに語る。例の一件について、真実に迫ることができていない当欄は今のところ〈失格〉である。

 谷本は毎夜、本を読む。きっと心を整えるために。

 『生き物の死にざま』(稲垣栄洋著=草思社)

 きのう谷本から薦められ、当方も買ってみた。この記事を送稿したら読んでみよう。=敬称略=

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