そんなの一蹴したほうがいい

 【12月27日】

 朝一番に球団事務所で挨拶を済ませ、旧知の先輩が入院する神戸の病院へ向かった。53歳になる先輩は先ごろ大病を患い手術を受けた。20年の付き合いになる同業他社の方だけど、他人事ではない。

 「おう、何回も連絡させて悪かったな…。体調?見ての通りや。ま、この歳やから…。俺もさ、取材して原稿書くのが好きな人間やから、若くしてこの病気になっていたら悔しかったと思うけどな」

 03年、05年の阪神優勝を現場で知る者同士…懐かしい話もした。

 「昔は発言がそのまま見出しになる選手が多かったよな。松井も清原もそうやけど、やっぱり金本はおもろかったわ。監督としては結果出せんかったけど、イデオロギーを感じる監督だったよな。ほぼ丸腰で戦うんやから…」

 阪神の球団事務所はこの日が仕事納めである。受付に鏡餅が飾られ、新しい年への準備を整えた。虎の20年シーズンといえば、助っ人8人体制がトピックスになるけれど、前監督は「最小限の補強」「生え抜きの育成」を信念に戦った。先輩はこれを「丸腰」と表現したわけだけど、そういえば、金本知憲は退任にあたり「そろそろ補強されたほうが…」と自虐的に語っていたことを思い出す。

 「発言が見出しになる」といえば、最近バラエティーやニュース番組でよく見掛ける元大阪市長の橋下徹である。橋下といえば、高校球児の丸刈り原則禁止を訴え、球数制限について一石を投じるなど野球界にも物申す人だけど、実は猛虎に対しても熱かった。思い出すのは、市長時代の15年。庁舎の定例会見で「金本阪神誕生」についてデイリーの記者からねっこり質問を受けたことがあった。

 「僕が学ばせてもらった大きな存在の一人が金本さん」と語った橋下に対し、デイリースポーツ記者から「組織のトップとしては先輩だと思うがアドバイスはあるか?」と問われると、こんなふうに答えていた。

 「(関係者から)『そんなことをやったら周りが不快に思うんじゃないですか?』なんて言われたらそんな質問は一蹴したほうがいいですよ!と、伝えたいですね。そんなものは関係ないんですよ。組織を率いてやるなら目標に向かって組織を引っ張っていく…もうそれしかないんですから」

 こんなことを書けば、金本は不快に感じるかもしれないが、金本監督は優しかった。いや、優し過ぎたのではないか。全ての局面とはいわないが、球団、スタッフ、コーチ、選手、OB…周囲を気遣い「それをやれば周りが不快に思うんじゃないか」と考え過ぎていたように思う。ファンにどう映っていたか分からないけれど、少なくとも「俺が決めたことに文句言うな」と蹴散らすタイプのリーダーでなかったことは確かである。

 矢野燿大は先日ラジオ番組でこう語っていた。「誰に何を言われようが『矢野ガッツ』はやめません」。これ、賛成。ガッツに限らない。外野の物言いを一蹴し、不快に思われようが、気兼ねすることなく、ぜひ矢野の哲学を貫くシーズンにしてほしい。=敬称略=

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