全員2ケタ勝てそう
【11月18日】
打ち上げ前に顔を出してきた。安芸市営球場ではなく、鳴尾浜球場である。毎年そうであるように今秋も安芸キャンプの日程と並行し、鳴尾浜で居残り組とリハビリ組の秋季練習が行われている。
「おう、いつこっちへ帰ってきたんだ?安芸はどうだった?」
2軍監督の平田勝男である。
「きょうの風の記事、読んだけど、その通り。慎也の言う通りだよ。緊張感の中で技術練習をしないと、ここぞの本番で力を出せない。きのうのプレミア12、見たか?あのしびれる試合で打てる山田哲人は本当に大したもんだよ。誠也も、浅村も、中川も、甲斐野も山本由伸も…」
きのう当欄で、前ヤクルトヘッドコーチ宮本慎也から聞いた話を書いた。
「体力面の練習は明るくやったほうがいいけれど、技術練習は突きつめてやらないと本物の技術は身につかない」-。
宮本のそんな言葉に平田は同調し、「慎也の言う通り」と、何度も何度も繰り返していた。
「星野さんが安芸のブルペンで言っていたんだよ。『おい平田、見てみろ。こいつら全員、2ケタ勝てそうに見えんか?結局、4万人、5万人の前で打者に向かって投げてどうかなんだよ』ってな。現役時代じっくりブルペンを見たことがなかったんだけど、確かにびっくりした。プロ野球に入ってくるような投手は、みんな練習では凄い球を投げるんだよな」
星野仙一の専属広報を経験した平田は16~17年前の安芸を懐かしみながら闘将節を教えてくれた。
「緊張感をもって技術練習をしているかどうか。風が慎也の言葉を紹介していた通り、プロ野球選手は技術屋なんだよ。いつだったか、岡田(彰布)さんがデイリーの評論で書いてたよな。心・技・体の順じゃない。最初に『技』がくるんだって。だってお前、『気持ちで打った』とか、『気持ちで抑えた』ってのは、まず技術があるからだろ。気持ち、気迫だけで通用するような世界じゃないよ。しっかりした技術がなければ、格上の選手には勝てないんだから」
平田節はどんどん熱を帯びた。
朝10時スタートの〈鳴尾浜キャンプ〉に原口文仁、荒木郁也、伊藤隼太、俊介、糸原健斗らがいち早くグラウンドに姿を見せた。そこに熊谷敬宥、片山雄哉ら、アジアウインターベースボールリーグ(台湾)参加組も加わり、虎の穴にはイイ顔の熱気が満ちていた。
プレミア12で世界一を獲った侍のメンバーに阪神の選手が一人もいない現実がここにある。実は日本代表コーチ建山義紀は高橋遥人の招集に積極的だった。それだけに「侍の遥人」を見たかったけれど、叶わず…。東京五輪は今大会メンバーが基本線だけど、来夏は世界に負けない技術を貯えた「虎侍」に大舞台を経験してほしい。
19日に打ち上げるこのメンバーでの秋季練習、どうでした?
そう聞けば、平田は言った。
「うん、いい時間だったよ」
安芸に負けない秋が、鳴尾浜にも確かにあった。=敬称略=