怒られることは当たり前
【9月29日】
余計なプレッシャーになるといけないので、「あと、ひとつ!」と騒ぐのはやめておく。それよりも、きょうはランディ・メッセンジャーに最も感謝している「女房役」のことに触れてみたい。
「え…っと、あまりはっきりとは覚えてないんですよね…」
ランディと初めてバッテリーを組んだ日のこと、記憶にある?
梅野隆太郎に聞けば、視線を宙に巡らせながらそう答えた。
僕はよく覚えている。
とにかく、ランディがとってもイヤなセンパイに見えたので…。
本紙記録部に確かめてみると、あれは14年3月のオープン戦。試合後、22歳の顔には「疲れたばい…」(?)と書いてあった。
梅野がマウンドへ何度サインを送っても、「ノー」と首を振る。初回からずっと、ずっと…。当時ルーキーの背番号44にとっては、たまらんかったはずだ。
「投げたい球を投げたかったんだ。何度もオレに首を振られてストレスが溜まったかもしれないけれど、いい仕事をしてくれたよ。とてもいい選手だと思う」(14年3月5日、初バッテリー)
「サインに首を振ってばかりでリズムに乗れなかった」(14年4月23日 公式戦初バッテリー)
これは5年前にランディが残した梅野に対するコメントである。
当時はバッテリーを組みたくなかったんじゃない?ぶっちゃけ、どうだった??意地悪な質問を投げてみると、梅野は言った。
「新人なんて怒られることが当たり前だと思っていましたから、それはなかったですよ。コーチからは『ランディの投げたいボールを投げさせてあげればいい。お前は、お前のやれることをやりなさい』と…。何度もバッテリーを組むようになれば思うところもあったりしましたけど、自分が一歩ずつ階段を上っていけたのは、ランディのおかげです。本当に…」
怖かった(?)エースの信頼を勝ち取るために、盗塁阻止やワンバウンドストップの技術を高めてきた5年間である。今シーズン、捕手のシーズン最多補殺119のプロ野球記録を塗り替えた梅野だけど、これも駆け出しのころから〈ランディの重圧〉を凌ぎ続けた成果…だと僕は思っている。
「言い合いになったことはなかったですけど、もちろん、自分も思うところはありましたし、ランディもあったと思います。ランディはバッターを感じながら投げるピッチャーなんですけど、それに対し自分がこうだと思ったものは意図として出せばいいし、まずは技術的なものの向上、ミスをしないところがスタートでした」
梅野はそんなふうにランディとの思い出を語ってくれた。
阪神の正捕手は梅野隆太郎だと書き続けてきた。ベンチにはベンチの見方があるだろうけど、〈ランディによって高められた〉梅野の技術が12球団屈指であることは誰もが認めるところだろう。ランディ&梅野のバッテリーで積み上げた勝利は33勝(23敗)。きょうはこの数字を噛みしめて…最終戦に臨みたい。=敬称略=