あれは、建のおかげだよ…

 【9月17日】

 ひとつ、内々の話を書いてみたい。デイリースポーツではなく、阪神タイガースの話である。

 毎年秋風が吹くころ、プロ野球界の残酷な現実を知らされる。DeNAでは松坂世代の後藤武敏が引退を表明したが、これは球団が19年シーズンの設計図を描き始めている証し。既に戦力整理が始まっているということだ。DeNAに限らない。阪神も間違いなく始まっている。が、きょうここで今年のそれを書くつもりはない。もう時効だろうから、2年前の〈ドラマ〉を紹介してみたい。

 16年、秋口のことだ。フロントから監督室へ整理対象リストが届けられたころ、金本知憲のもとへ一本の電話が入った。阪神2軍投手コーチ高橋建からだった。

 「監督、ご相談があります。桑原のことなんですが…」

 球団内では既に翌年へ向けた戦力精査が始まっており、同年1軍登板のなかった桑原謙太朗が整理対象になることは、鳴尾浜でもささやかれていた。早くから状況を察知していた高橋は指揮官へ「見たまま」を直球で伝えたという。

 「今年はダメでしたが、桑原は使えます。まだ戦力になります」

 監督初年度、1軍で一度も姿を見なかった中堅投手を正確にジャッジできない。金本は高橋の進言を信じると同時に、ピンときた。

 そういえば、俺は苦手だったな…。現役時代の対戦記憶が鮮明に甦った。あの、真っスラである。打者の性質を問わない厄介な軌道…。あいつの「宝刀」が本領に戻れば、確かに使える-。

 こうして、当時のリストは一旦差し戻されたのだ。

 07年度ドラフトで横浜ベイスターズに入団し、オリックスを経て阪神へやってきた桑原の16年までの成績は4勝8敗、0セーブ、5HP。阪神2シーズンの防御率は8・53…金本はそんな右腕を支配下70人に数えただけでなく、大胆にも「セットアッパーで使う」と主張したのだ。疑心暗鬼だったチーム内で理解を求め、眼力を押し通した答えが昨季の結果=セ・リーグ最優秀中継ぎ投手賞である。

 「あれは高橋建のおかげだよ」

 金本が桑原を語るとき、決まって周囲にそう伝えると聞く。

 昨季フル回転した疲れはあるものの、桑原は再生2年目を粘り腰で戦っている。一年前ほど目立たないが、現在セ・リーグのHPランキング2位。この日は同点に追いついた直後の六回裏、1イニングを無失点で切り抜けた。スライダーを軸に宮崎敏郎、ネフタリ・ソト、筒香嘉智を3人で斬ったのだから価値がある。六回終了時でリードした試合は46勝2敗1分け…勝率・958。阪神のこの数字は依然セ界トップ。もちろん、桑原抜きに成立しない成績である。

 20点爆勝の翌日にあと1本が出ず、サヨナラ負け…。他軍に誇れるブルペン陣で敗れればファンも「しゃあない」と思えるか。でもそろそろ守護神の代謝は必要…。目前の一戦だけじゃない。再生、発掘、代謝はチーム一丸で。虎の〈潜在戦力〉は、まだまだ埋もれているかもしれない。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス