保険をかけない、打球音
【9月13日】
壇蜜が「週刊新潮」で連載する長編コラム「だんだん蜜味」を愛読している。今週号のそれは「三大音色」の書き出しで…。
「好きになった相手のそれを聞くのはいいのだが、相手には聞かせたくない音色がある。げっぷ、屁の音、そして腹の虫…(中略)聞かせたくないという気持ちは常に持っていたい」(原文まま)
失いたくない、恋人への羞恥心…要は女心を書いているのだが、当方はといえば、まあ恥じらいもなく、連れ合いにそれらを聞かせてしまっている。じゃあ逆に、パートナーから「聞きたい音」って何だろう。自分に置き換えると…粋な旋律を奏でる才能はないし、歌唱もダメ…。そんなこと考えたこともなかったけれど、相手に聞かせたくなる、自慢の音色など持ち合わせていないことに気づく。
音痴とまで思わないが、音に敏感でもない。普段この仕事をしていて触れる音といえば何か…。選手たちの掛け声、ウグイス嬢のアナウンス、スタンドからの歓声、罵声、ジェット風船…くらいか。
「鈴木誠也、丸…。ベンチで聞いてみたら分かるよ。カープの主軸はもう、音が違うから」
金本知憲が僕の知らない「音」を教えてくれた。大打者の指導者が敏感になるのは、やはり打球の音色なのか。ネット裏上段の記者席からは、残念ながら打球音の違いまでは分からない。そんなに違います??と問うと、金本は「全然、違うよ」と力説するのだ。
いつもグラウンドレベルで試合を観ている阪神球団社長の揚塩健治に確かめてみても、「本部席はガラス張りですしね…」という。
ならば、本気で確かめてみるか…。さすがに試合中ダッグアウトに潜入することはできないので、一塁ベンチ上のスタンドから。
松坂……でなく、松山の音は確かにスゴかった。あ、そうなんです。僕は甲子園を離れ、マツダスタジアムにいるんです。当欄とは別の取材があって、広島へ来た次第。この夜はカープ主軸の打球音を意識して聞かせてもらったけれど、金本のいう「違う音」とはこのことか。右翼へ飛んだ松山竜平の先制弾、さらに、左翼を飛び越えた鈴木誠也の2ラン…。とりわけ誠也の一発は3ボールからのフルスイング。間違いない、この音だ。ただ、活字では難しいな…。
ならば、自軍ベンチで耳にするこの人、新井貴浩に説明願おう。
「自分が聞いていても、打球音は違うと思います。丸にしても、誠也にしても。やっぱり、積み重ねてきた練習量でしょうね…。彼らは年々、段々、強くなってきていますから。特に室内で打っていると、音はよく分かりますよ」
もう1人、カープ打撃コーチの東出輝裕に聞けば「スイングに迷いがないからでしょうね。保険をかけないんです、芯で打ちたいとか…。ウチの選手は怖いもの知らずなんで」と、誇らしげに言う。
阪神戦をネットで追った夜だけど、さて、若虎は松坂相手に保険をかけないスイングができただろうか…。カープ自慢の音色。もう少し、取材したい。 =敬称略=