上本の同期生が語る「一丸」
【5月6日】
読者の方は「富山のおかわりくん」を覚えているだろうか。いやこの呼び名は相当古いか。かつて阪神でガッツマンとして名を売った野原祐也である。ワケあって、彼に会いたくなったので鳴尾浜へ行ってきた。といっても、野原はもう阪神の選手ではない。12年限りでNPBを離れ、翌13年古巣富山サンダーバーズ(独立リーグ)にコーチ兼任で復帰。その人柄とコーチングの資質を請われ、昨年OBC高島という社会人のクラブチームに監督として招聘された。
「こんにちは!」。鳴尾浜の三塁ベンチで再会した野原は変わらぬ礼儀で迎えてくれた。この日はタイガース2軍との練習試合。プレーボール前の束の間だったけれど、2人で虎時代を懐かしんだ。 「阪神の試合はやはり気になりますよ。金本さん、少し痩せられましたよね。頬のあたりが…」
野原は心配そうだった。そりゃ現役時代と比べれば食べる量も減っただろう…。そう伝えると「ですよね」と納得していたが、ステージは違えど、同じ監督業に就く者として自身と重ねるものもあるようだ。昨年1月の就任後、ストレス性の病で一時「足が動かなくなった」そうで、松葉づえで生活した日々もあったのだとか。教育して人を束ねる…過酷な任務だ。
野原との再会は2年ぶりくらいになるが、人を預かる職、今の地位がそうさせるのか「責任」が重くのっかった顔つきをしている。
「選手たちには人間育成のことばかり言っています。まず挨拶。謙虚な気持ち、礼儀…。そこが欠如すると、何も良いことはないので…。社会人の試合は一発勝負。チーム一丸でなければ勝てない…というより、戦えないんですよ」
そうやって野原と話している間も、OBC高島の選手たちは皆、立ち止まって僕に挨拶してゆく。フリー打撃を終えた選手は打撃投手役に向かって「ナイスピッチャー!」と必ず声掛けをする。清々しい気持ちにさせてもらった。
強豪の企業チームとは違い、資金も潤沢でなければ、環境整備も追いつかない。それでも野原着任後のOBCは都市対抗野球で創部史上初の2次予選進出を果たすなど着実にチーム力をつけてきた。
阪神2軍監督の矢野燿大はファーム教育で「社会性」の大切さを説いている。野球選手である前にというやつだ。社会人として…いや、実はこの教育、哲学こそがチーム強化への近道なのかもしれない。野原と会ったからではなく、最近よくそう思うことがある。
鳴尾浜から中日戦の甲子園へ戻る晴天の道すがら、野原に会いたくなった理由をかみしめてみた。
「彼は本当にいい人間です。当時(育成で入団した)僕みたいな何てことない選手にも分け隔てなく接してくれて…。嬉しかった」
「彼」とは上本博紀。野原は08年度ドラフトの同期生を思いやった。ここに全てを書けないが、やはり上本の故障は無念…。野原の言葉じゃないけれど、チーム一丸でなければ…はプロも同じ。その尊い理念を上本の復帰まで忘れずに進んでいきたい。 =敬称略=
