高橋尚子の「自信」

 【11月14日】

 NHKのドキュメンタリーにくぎ付けになった。番組名は「あの日、あの時、あの番組」。東京五輪まで1000日を切ったタイミングでオンエアされた17年前のNHKスペシャル。カメラが密着していたのはシドニー五輪女子マラソン金メダルの高橋尚子だった。

 「あの翌日、朝6時に起きてシドニーの街を走ったんです。前日いい成績を残したので、何か景色が変わっているかなと思ったんですけど…。ただ風が冷たくて、何も変わってないなって…。あぁ、私も変わっちゃいけないんだ。私のような素質のない選手はこれまでと変わらず、一生懸命やらないといけないんだって思いました」

 五輪金メダルという、日本女子陸上界において史上初の快挙を成し遂げたヒロインは、カメラの前でそんなふうに語っていた。

 2000年の夏。あのレースをリアルタイムでテレビ観戦していた読者も多いと思う。僕も観て感動したのだが、高橋が偉業の翌朝から次へ向けて走っていたとはもちろん知らなかったし、驚いた。

 「翌日にそんなことを言うもんやから、びっくりしたよ」

 高橋の話じゃない。元広島守備走塁コーチの笘篠賢治から聞いた金本知憲のエピソードである。阪神がCSファーストステージでDeNAに敗退した後、僕は日本シリーズが決着するまでプレーオフを取材してきた。その現場で現野球評論家の笘篠と久々に再開したのだが、「もう時効だから話してもいいかな」と、広島時代の金本の秘話を教えてくれた。

 2000年の秋。神宮球場でのシーズン最終戦で当時カープの主砲だった金本は30号ホームランを放ち、史上7人目のトリプル3を達成する。その翌日のこと。東京から広島へ戻った笘篠は金本から夕食の誘いを受けたという。

 「カネからお礼をしたいって言われてさ。東京から帰ってきた夜に、ふぐをご馳走になったんよ。そこでカネが真剣な顔で俺に言うわけよ。『僕ね、来年もう一回、トリプル3をやりたいんですよ。だからこのオフしっかりやります』って。シーズン終わった次の日やで。もう練習のことばかり考えててさ。こいつ凄いと思ったよ」

 確かに金本から聞いたことがあった。「30盗塁できたのは笘篠コーチのおかげだった」と。ただ、そんな裏話は知らなかった。

 4月から長丁場を戦った選手が休む間もなく体をいじめる。それが若手の秋季キャンプ…。この日の安芸はあいにくの雨模様で、メイン球場、サブグラウンドがともに使えないため、打撃練習は終日ドームで行われた。連続ティー、フリー打撃、そして最後は打ちっ放しの50分間×2本。打撃コーチの平野恵一に聞いてみた。毎日これだけ振れば慣れてくるものか。「いやいや、きついですよ」-。

 そうそう。前述したNHKの番組で高橋尚子は語っていた。

 「私はシドニーのレースを楽しめました。あの舞台を楽しむことができたのは、練習で走った量は誰にも負けないという自信があったからです」-。=敬称略=

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