出でよ、正捕手

 【8月12日】

 夏の甲子園、真っ盛りである。大会前は「清宮幸太郎ロス」なんて言われたけれど、いやいや…。連日、テレビ中継を視るのが楽しみで仕方ない。それくらい、魅力的な素材で溢れていると思う。来週は◎の選手をナマ観戦しようと思っているのだが、僕が注目しているプラチナたちは初戦から期待を裏切らない活躍を見せている。

 「おう。見た、見た。いいんじゃないか。楽しみだよな」

 横浜スタジアムのベンチ裏で金本知憲に聞けば、やはり母校の後輩が気になっているようだ。

 広陵の3年生捕手・中村奨成(しょうせい)である。中京大中京戦で2本塁打を含む4安打3打点と大暴れし、ネット裏に陣取ったプロ球団のスカウトをうならせたようだ。本紙アマ野球担当によれば、アトランタ・ブレーブス国際スカウトの大屋博行にいたっては「今大会No.1の野手」と言い切ったとか。セ・パのスカウト絶賛の中、僕が注目したのは広島スカウト統括部長の評価である。30年近く前、金本を発掘した苑田聡彦は「今まで高校生捕手で一番は谷繁(元信)だと思っていたけど、中村はいい勝負」と話したという。

 今秋ドラフトに向け、阪神も中村を上位にリストアップするだろう。だとすれば、虎の現有戦力は「待った」をかけなければいけない。捕手は向こう10年、安泰ですよ。球団フロント、チーム首脳にそう思わせなければならない…。

 阪神に「正捕手」はいるのか。この夜、改めて金本に問いかけてみると、はっきりとこう言った。

 「100試合?いや、もっとだな。(100試合をこえて)もっと、スタメンで出る捕手じゃないと。そういう意味で今年は(正捕手は)出なかったということ」

 先発マスクで100試合以上が「正捕手」だとすれば、13年に111試合先発した藤井彰人(阪神育成コーチ)以来、不在である。

 「打てて、刺せること」。これが、金本が「一流捕手」と呼ぶ素材である。「若い選手を見るときは、打力と肩かな。配球というのは後から覚えるものでしょ。若いキャッチャーがいきなり全てできるわけじゃない。配球は経験を積んで上手くなるものだから…」

 今季、その条件に最も近い梅野隆太郎に期待がかかったが、阪神が102試合を消化したこの夜、梅野の先発マスクは74試合。坂本誠志郎と併用される現状を踏まえれば、シーズン残り41試合で100試合到達は厳しい計算になる。

 「いつもチャンスで代打を出されているようではダメですよね。悔しいですし、自分の足りないところ。走者を刺すというところでも、厳しい試合展開で刺してこそだと思いますし、信頼されるにはまだ課題が多いと思っています」 梅野はそう語った。この日も六回に嶺井博希を刺し、阻止率はリーグ2位の・375。ワンバウンドのストップでも、投手の信頼を勝ち取っている。だからこそ、打力である。先発74試合中、26試合で代打を送られている現実を直視し、元大学日本代表の4番はもがく。出でよ、正捕手。=敬称略=

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