赤ゴジラのルーツ
【6月15日】
ライオンズの攻撃陣は恐ろしかった。この3連戦を終えた素直な感想である。昨季35本塁打、103打点のエルネスト・メヒアが6番や7番を打つオーダーは怖いに決まっている。足を使える1、2番に、球界屈指の和製クリーンアップ。下位まで打線に切れ目なく対戦バッテリーは気を抜けない。
この強力な攻撃陣を担当するのは打撃コーチの嶋重宣。広島時代「赤ゴジラ」のニックネームで人気を博し、04年に首位打者のタイトルを獲得した、あの嶋である。
カープの04年といえば、そう。大黒柱、4番の金本知憲がFAで去ったシーズン。99年に投手から野手へ転向した嶋は金本の移籍をチャンスに変え、打撃を開花させた。12年に元虎戦士江草仁貴との交換トレードで西武入り。昨季から1軍打撃コーチを担っている。 昔のイメージってなかなか消えないものだ。僕が広島を担当していたころ彼は投手だったので、いまだに打撃コーチの肩書にちょっぴり違和感があったりもする。久々にじっくり話した嶋に冗談っぽく、こんなふうに聞いてみた。
強力打線を預かる担当コーチって、左うちわじゃないの?
「そんなわけないですよ。ウチは個が強いだけに、時に攻撃が淡泊になることもあるんです。試合が淡々と終わってしまうこともありますし…。個人プレーになることが一番怖いので。個を生かしながら、チームとしてどう機能させていくか、いつも考えています」
この夜のメヒアの一発を含め、本塁打、打点の数は12球団3位。ドカンドカンと得点する印象だけれど、嶋によると、反省会では拮抗したゲームで何とか1点を取りにいく野球が主題になるという。敵の拙攻も題材にあがるそうだ。
「相手の攻撃を教訓に我々は何をしなければいけないか考える。あの状況で確実に1点を取るためにはバッターが最低何をするべきか。最高はこれだけど…と。自分の役割を徹底していかないと簡単に点は取れない。そのためにはどんな球を待つのか。その球を打つためにどこに目付けするのか…」
1点リードの二回無死二塁。
1点を追う四回無死一、二塁。 同点の六回1死一、三塁…。
例えばこの夜の阪神はこれらの状況で得点を奪えなかった。結果論で語るのではなく、それぞれのアプローチを自軍に置き換え、あの局面で打席に立てば最低限こんな打撃をしよう、と。嶋はその教訓を選手たちと共有するという。広島時代から学んできたこと…。監督100勝目を挙げた金本も肝に銘じる夜になったに違いない。
嶋が首位打者のタイトル獲った時に聞きたかったことがある。なぜ、あれほど鮮烈にブレークできたのか。別れ際に尋ねてみた。
「実は三村(元広島監督)さんの言葉があって…。『もし、練習で追い込んでケガしたら野球を辞めればいい。簡単じゃ』って言われて、吹っ切れました。初めて本気で自分を追い込めたんですよ」
赤ゴジラのルーツ。嶋は西武の選手たちに「それは語ったことはないです」という。=敬称略=