西岡剛を欲する時

 【6月11日】

 助手席に乗っていた仕事仲間、報知新聞のカメラマンが叫んだ。「危ないっ!」。運転者の僕は固まってハンドルを切れなかった。米国フロリダでメジャーのスプリングトレーニングを取材していた数年前のことだ。メッツのキャンプ地、ポート・セント・ルーシーからブレーブスのオーランドへ移動するフリーウェイで、前を走っていたトラックの補助タイヤが突然、落ちた。間一髪難を逃れたのだが、左右に揺れながらこっちへ向かってくるデッカいタイヤの残像は今も記憶から消えていない。

 前日、東名高速で分離帯を飛び越えた乗用車がバスに衝突する直前の映像が公開された。ふと、フロリダのタイヤを思い出したのだが、世の中、時として備えのできないハプニングが起こるものだ。

 タイヤは飛んでこないけれど、プロ野球でも予期せぬ危機は訪れる。福岡で糸井嘉男が左太ももを痛めた。得点圏打率リーグ最高、打点チーム最多の主軸を長期で欠くことになれば一大事である。この日、九回に代打で出場した糸井の仕草、動作を見ても、やや無理を押して出た感は否めない。軽症とのことだが、この先を考えれば慎重にならざるを得ないと思う。

 予期せぬ危機…と書いたが、チームを指揮する立場としては「どうしよう」では済まされない。有事に備えたシミュレーションを描いておくのも監督の仕事である。

 金本知憲は福岡で話した。

 「全員が万全で一年を乗り切れるなんてあり得ないことだから」

 今年は若い力、中堅の再生で戦力に厚みが増した。とはいえ、ソフトバンク並み…とはいかない。内川聖一や和田毅、千賀滉大、武田翔太…錚々たる面々を故障で欠きながら、それでも戦力に陰りが見えないのは危機管理の力、巨大な備えのおかげである。現状、阪神はそういうわけにいかない。

 例えば、鉄壁に近い虎のリリーフ陣、その一人にアクシデントがあった場合、誰が代わりを務めるのか。野手もしかり。頼りになる存在であればこそ、何時も代役を想定しておかなければならない。

 ファームを見渡してみる。ウエスタン・ソフトバンク戦(甲子園)で登板したロマン・メンデスはラファエル・ドリスの代わりをできるのか。3安打したエリック・キャンベルは鳥谷敬の…など色んな想定が必要になる。中でも気になるのは、1軍で代役以上になり得る西岡剛のカムバック過程だ。

 「上の試合に出て初めてプロ野球選手。ただ、自分だけの気持ちで突っ走ることはしないようにしています。ここまで慎重にやってきたので、8割、9割まできてあとの1割を飛ばしてケガするのは最低なので…。慎重になりすぎても前に進めないですし、そこは状態を見ながらやっていきますよ」

 この日、ショートで先発(詳細は1面)した西岡は僕に語った。 先日、オーナーの坂井信也と会った。西岡の元気な姿を待望し「だいぶ体を絞っているでしょ」と話していた。その通り。彼の万全復帰こそ、金本が描く、秋への大切な備えである。=敬称略=

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