小野泰己の「幸運」

 【5月21日】

 サッカー好きの虎番記者が大型テレビにかじりついた。ヤクルト対阪神のプレーボール1時間前、韓国で開催されているサッカーU-20W杯の日本対南アフリカがキックオフ。15歳の天才、久保建英見たさで神宮球場のプレスルームは控えめに盛り上がった。プロ初先発の小野泰己が初回のマウンドに立ったとき、水原W杯スタジアムでは、サブだった久保がピッチに投入された。そして同点の後半27分、日本の逆転ゴールが久保の絶妙なアシストから生まれた。

 バルセロナの入団テストに合格した唯一の日本人。しかも、10歳で…。サッカーに目がない僕はテンションが上がる…と同時に映像で久保のインタビューを見ていて思う。本当に15歳??落ち着いた対応はまるで10年戦士である。

 そんな久保の印象的な言葉がある。半世紀に一人の逸材が代表メンバー選出の会見で発したコメントに、オッサン記者は唸った。

 「自分は、これまで何とか運を味方につけてきた結果として、ここにいると思っています」

 世界最高峰のクラブが一瞬で彼に見惚れたと聞く。これは実力以外の何ものでもない。それでも少年は「運を味方に…」と言った。どれだけ優れた才能を持っていても、それだけでは表舞台に立てないんだ、と。確かにそう。プロ野球の世界でも何度も見てきた。鳴りもの入りで入団した金の卵が、運に恵まれず去ってゆく姿を…。

 金本知憲に直接尋ねたことがある。現役21年間、誇れる記録を残せたのはやはり継続の賜物だったのか。そのとき、金本は笑いながらたったひと言で片づけた。

 「運よ」

 もちろん、本音は別のところにあるだろう。だけど、不休が代名詞だった鉄人は、自らが歩んできた野球人生で、実は欠かせなかったものが何かを知っている。

 この夜、かつて阪神にも在籍したヤクルトバッテリーコーチの野村克則と話をした。あなたの役回りは苦労が多いでしょう?そう聞くと、真顔でこう答えた。

 「試合の中では1球、1球ですからね。(正捕手の)中村悠平と一つずつ確認しながらやってますけど、結果が全てです。正解と思っても、打たれてしまったら結果としてその配球は間違いになるわけだから。難しいですよね」

 たった1球、たった一呼吸で試合が決まる。ときに判定に泣き、ときに打ち取った当たりがハードラック…なんてこともある。すべて結果論で語られる世界。強い運を味方につけなければ勝者に選ばれない、無情な世界でもある。

 新人対決は「運」の綱引きだったのか。高山俊の打ち損じが…。まさかの敬遠暴投が…。小野の黒星が消え、ヤクルト星知弥の白星が吹っ飛んだ。小野は持っている?試合後、金本に聞くと「どうやろ」と笑った。投手コーチの金村暁に同じ質問をすると「どうかな…。でも、連敗中のチーム状況で淡々と投げるその度胸は感じました」と言った。小野には、この夜の「幸運」を大切にしてほしい。=敬称略=

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