わがままを言える域

 【4月18日】

 大記録が途切れた翌日のことを書く。あの日、球場入りした金本知憲は中日監督の落合博満に手招きされ、打撃ケージ裏に足を運んだ。二人で何やら話しこむ。1分、2分…。僕ら報道陣は阪神ベンチ前の取材エリアから両者のやりとりを眺めるしかない。5分を超える「密談」…。間もなく阪神のウオーミングアップが始まり、その中身は分からずじまいだった。

 「おお、覚えてるよ」

 あれから6年。金本は当時の対話をはっきりと覚えていた。

 落合「あの後、どうして守りにいかなかったんだ。連続試合にこだわってたんじゃねえのか」

 金本「いえ、連続試合にこだわりはありませんでした。真弓監督が『ほかの若い選手を代打に出すよりも、カネに出てもらいたい』と言って、結果的に続いていただけですので。僕は本当に全然…」

 当時の取材ノートをめくってみると、落合は金本にさらにこんなことを言っていたようだ。

 「この世界、わがままを言っても許される選手がいるんだよ」

 ここまで書けば、いつの話か分かってもらえるかもしれない。

 2011年、4月15日。ナゴヤドームの中日(1)戦で金本の連続試合出場が1766でストップした。当時のデイリースポーツの1面は「え?止まった連続試合」の見出し。覚えてらっしゃる読者も多いと思う。局面は2点リードの八回2死。四球で出塁した俊介を一塁に置いて金本が代打で登場。詳細は省くが、この局面で俊介が二盗に失敗し、チェンジ。金本が裏の守備に就かなかった為、幻の打席は「出場」に数えられず、衣笠祥雄を追うプロ野球歴代2位の記録はあっけなく途絶えた。一塁ベンチから一部始終を眺めていた落合が金本に言いたかったことはこうだ。「なぜ志願して守備に就かないんだ」「お前ほどの選手ならわがままを言ってもいいんだ」。

 何の因果か。この夜、ナゴヤドームの中日(1)戦で鳥谷敬の連続試合出場が金本に並ぶ1766に達した。背番号1は打率・354でこの試合を迎えた。節目の試合は無安打に終わったものの、北條史也の右中間安打で一塁から生還した走力は若さに溢れていた。大きな故障もなさそうだから、記録はきょう金本を超え、衣笠の2215試合に迫ってゆくことになる。

 「わがままを言ってもいい選手?いるとは思うけど、俺なんて全然。ただただ迷惑を掛けられないと思っていたから…。あのとき記録が途切れてホッとしたし、ある意味、俊介には感謝しているよ」

 あの名古屋の夜を思い起こし、金本は笑いながらそう話した。

 指揮官の記録を一つ超える鳥谷について思う。キャンプ中にも書いたが、主将の肩書きが外れた今、貪欲に個人記録を求めて欲しい。連続フルイニング出場は昨年途絶えたが、連続試合出場には誇りを持ってこだわってほしいし、残り111本に迫る2000本安打にも…。落合の言う「わがままを言える選手」にたどり着く資格だって、十分あると思うから。=敬称略=

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス