化ければ、黒田博樹

 【4月14日】

 90年代後半にカープを担当し、錚々たる面々を取材させてもらった。野村謙二郎、緒方孝市、前田智徳、江藤智、金本知憲、正田耕三…。名選手ほど個性は強いものだが、広島に赴任した当時、特に取っつきにくかったのが前田と金本。僕の性格が偏屈だからか、こういう選手こそ、どうにか心を開かせようと思ってしまう。

 記者にとって厄介な選手とは、まともに喋ってくれない、今で言う塩対応。前田は修行僧みたいに寡黙だったし、金本はこちらが変なことを言えば怒られそうな気配があった。当時、2人とも20代。共通していたのは練習の虫で、若くして結果を残していたこと。さすがに結果を出さずしてこんな態度だと、周囲の目は冷めてゆく。

 広島を離れて17年ほどになる。知った選手が監督、コーチになり、チームは様変わりした。それでも今も成績は気になるし、新戦力は楽しみに見てしまう。だからというか、余計なお世話だけれど…とても気になる存在がいる。加藤拓也。この夜、甲子園で先発したドラフト1ルーキーのことだ。

 3月、加藤のあるインタビューが話題になった。アナウンサーに対する“塩対応”ぶりが賛否の対象になってしまった。歳をとったのか、親の心境で見てしまうと、確かに嫌な汗が出るやりとりだった。仏頂面でインタビュアーの質問をオウム返し。何を聞きたいんすか?と、その顔に書いてあった。ああ、これは誤解される…。面識もないのに心配になった。

 実は、カープOB会長の安仁屋宗八から事前に情報をもらっていた。キャンプ中、安仁屋は「加藤ってやつ、おもしろいぞ」と話していた。1月の合同自主トレでのこと。自身が臨時コーチを務めることもあって、カープ編成部長の川端順から加藤を紹介されたという。すると、初対面の22歳はこう言ったそうだ。「言うことを聞けるコーチと、聞けないコーチがいます」。今どきの選手と片付けるのは簡単だが、安仁屋はその後、実際に接してみて感じたそうだ。

 「性格は全然違うけど、若い頃の黒田のような、野球に対していい意味での図太さがあるんじゃ。化けるか、化けないか。化ければ黒田のようなエースになるぞ」

 プロ初登板はヤクルトを相手に9回1死までノーヒットノーラン。2戦目となったこの夜は6回8四球3失点。登板後、本人は「負けた原因は全て投手にあります」。確かに雰囲気のある新人だ。

 「彼の場合、四球を出しても長く感じないんですよ。四球を出そうが何しようがテンポが一緒。捕っては投げ、捕っては投げするので、野手に守っている時間を長く感じさせない。それを図太さと言うのか分からないですけど、そういう意味では大したもんですよ」 試合後、新井貴浩はそう教えてくれた。新人時代の黒田博樹とはダブらない。でも、安仁屋の予言を楽しみにしたくもなる魅力的な素材だ。ちなみに…カープの選手たちは口を揃える。「加藤?口べただけど、とてもいいヤツです」=敬称略=

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