23歳の階段

 【4月13日】

 大卒1年目の23歳と言えば?社会人1年目、いわゆるぺーぺーである。野球記者では俗に「小僧」と呼ばれる立場。もちろん、僕も経験した。デイリースポーツに入社した1995年は、あの「オウム真理教事件」が連日紙面を賑わせていた。駆け出しの小僧は息つく間もなく現場へ走らされる。

 入社間もない4月に起きたオウム幹部・村井秀夫刺殺事件のときは足がガクガク震えた。何が何だか分からないまま、時間だけが過ぎてゆく。当時を振り返ると、そんな思い出しか残っていない。この夜、23歳になったばかりの藤浪晋太郎を見て改めて思った。小僧でしかなかった当時の自分に置き換えるのは、やめよう…と。

 9四死球で乱闘を招いた前回登板の紙面でこう書いた。

 藤浪が変わらなきゃ、阪神は今年も勝てない。

 間違ったことを書いていないし、訂正するつもりもない。この論調には各方面から反応があった。紙面を見た阪神OBで野球評論家の関本賢太郎からは「厳しいこと書いていましたね」と声を掛けられた。国技とも呼ばれるプロ野球、その伝統球団の大黒柱と期待されるがゆえに、スポーツメディアで破格に扱われる。長年阪神と関わっているので、それが当たり前だと思って書いているけれど、ふと立ち止まり、20代の自分に置き換えてみると、藤浪クラスのメンタルは想像がつくものではない。

 前回登板の後、投手コーチの香田勲男は「晋太郎のような真面目で優しい人間ほど、あんなふうになってしまうことがある」と話していた。精神面が原因でコントロールが効かなくなる「イップス」を発症し、一線から去った投手を何人か見てきた。香田は僕との会話の中で「心配ですよ」と何度も言った。次、ダメなら…。金本知憲も最悪を想定し、覚悟を持って、この夜を迎えていたと思う。

 投げ方が分からない…。僕が担当した選手ではカープの新井貴浩も経験している。野手でもイップスはある。内野手なら一塁への投げ方が分からなくなる。彼が新人時代のキャンプで実際に見た。捕球後、リリースポイントがつかめず、ボールを握った手が頭部をかすめてしまう。「下手クソ」。当時、大卒1年目のドラフト6位はそんなレッテルを貼られた。だが彼はこの病を克服し、一流への階段を上るのだ。新井は言う。

 「実際に下手だから下手クソと言われるのは当たり前ですし、結局は本人がその言葉に対して真摯に向き合うかどうか。その言葉から逃げずに一生懸命やるかどうか。僕の場合、攻める気持ちを持ってやろうと。同じダメなら、引くのでなく、攻めようと。結局は練習。練習しないと、うまくならない。それだけははっきり言える」

 8回1四球。この結果について藤浪は言った。「しっかり調整してきたので、それを出すだけだとシンプルに考えていました」。厳しい声と向き合い、練習し、攻めた。僕の目にはそう映る。この23歳、メンタルはそうヤワじゃない。=敬称略=

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