値千金の内野ゴロ

 【3月15日】

 イニングは2点を追う中盤。場面は1死二、三塁。ボールカウントは2-2。マウンドには野球王国の奪三振王が立っている。二塁走者は俊足だが、三塁走者の足はさほど速くない。さあ、どんなバッティングを心掛けようか…。

 侍ジャパンが日本を熱くしている。山田だ。中田だ。筒香だ。坂本だ。小林だ。攻撃陣のインパクトは華々しい。「ブレない」が売りの本紙1面を阪神から奪うのだから、彼らの注目度は国民的行事を超えたことになる!?世界一を奪還すればMVPは…。少し気が早いが、そんな話題もワクワクする。この先、どんな結末が待っているか分からない。が、2次リーグ第2戦で日本の3番が転がした地味なゴロにもっとスポットライトが当たってもいいと思う。

 この2日間、WBCも阪神もナイターだったので虎の関係者は侍の熱戦を見られない。そう思っていたら、違った。金本知憲や福留孝介は録画やニュースで日本代表の戦いをチェックしていたという。14日のキューバ戦は阪神の選手間でも切り口は多かったと聞く。

 ・000。これは青木宣親の今大会の得点圏打率である。代表不動の3番だからこれでは物足りない?プロ一流の評価はそうじゃない。決勝ラウンドに王手をかけた今大会2度目のキューバ戦。日本は2点劣勢の五回、1死二、三塁から青木の二ゴロで1点を返し、同点、逆転につなげた。山田哲人の2発がクローズアップされがちだが、青木が8球粘って転がした「適時ゴロ」こそ値千金。金本も福留もそんな見方をしている。

 金本は評論家時代、ネット裏の放送席からいつも言っていた。

 「点差、イニング、アウトカウント、それにボールカウント、投手との力関係、ランナーの足の速さ、守備隊形、風…。常に状況を頭に入れて打席に立つのが基本」

 金本が阪神にチーム打撃を植え付けた現役時代。なんとか1点が欲しい走者三塁の局面でよく内野ゴロを打っていたことを思い出す。プロ21年間で476本塁打のスラッガーが冷静に投手との力関係、ゲーム状況を見極め、狙ってボテボテの進塁打を転がしにいく。虎将時代の星野仙一は金本の献身的な姿勢を度々たたえていた。

 2点差。五回1死。三塁走者は小林誠司、二塁走者は山田…。昨季のキューバリーグ奪三振王の変化球を二塁へ転がした青木の貢献度を福留はこう評する。「ああいう1点が最後に効いてくるんですよ」。個人成績だけ見れば今大会の青木は本領を発揮できていない。それでも代表監督の小久保裕紀はメジャーリーガーを3番から外さない。その献身性が攻撃陣の支柱であり、米国ラウンドでもその存在感は必ず光ると思う。

 阪神は糸井嘉男の復帰戦を序盤の大量失点で落とした。本番なら大味な負け試合は見せ場がなくなる。でも、まだプレシーズン。金本はベンチから若い選手の野球観を見ている。状況判断。献身性…。逆境でも貢献できる。この国の代表にいいお手本がいる。=敬称略=

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