日本のエースへ

 【2月19日】

 金本知憲はテレビ画面に向かって思わず叫んだ。「よっしゃ!」-。あれは2012年、10月25日。当時の阪神監督、和田豊がドラフト会議で藤浪晋太郎のクジを引き当てた瞬間のことだ。テレビ解説の仕事で都内にいた金本は『ザ・プリンス パークタワー東京』の一室で色紙にペンを走らせた。

 「日本のエースに!大きく育て!」

 自身の引退試合から2週間後のこと。入れ替わりで阪神入りする18歳へ、デイリースポーツがメッセージをお願いすると熱いエールを送った。

 「本当に光栄です。この言葉を目指し、いつかは、金本さんに言っていただいたようになりたい」

 これが、金本の激励を伝え聞いた18歳の返答だった。当時の取材ノートをめくってみると、金本は雑談でこんな話もしている。

 「1年目から1軍でバンバン投げようと思わなくていいんじゃないかな。じっくり、大きく育って欲しい。俺なんて1軍で試合に出だしたのは大卒3年目だから」

 あれから4年が経ち、互いの立場は指揮官&エースに変わった。22歳にして「日本のエース」になれるかどうか。3月7日に初戦を迎えるWBCまであと約2週間。阪神から唯一侍ジャパンに選ばれた背番号19はこの日、代表招集前のラスト登板、日本ハム戦に臨んだ。5回1安打3四死球、1失点。最速154キロ、7奪三振。四回に制球を乱したが、金本は「心配してないよ。WBCで活躍したら自信にもなる」と話した。

 「日本のエース」に成長してもらいたい。金本が5年前に送ったエールを知ってか知らずか、阪神球団は大願を共有している。フォア・ザ・晋太郎。球団スタッフ内には今、そんな空気が流れているようにも感じる。増井浩俊、宮西尚生、大野奨太、そして中田翔。日本ハムの侍メンバーが誰も来なかった練習試合。それでも藤浪の投げた5イニングはWBC球で試合を行い、宜野座のマウンドは前日の夕方、阪神園芸によって本大会仕様に作り替えられていた。

 コンディショニングもバックアップ体制を敷いている。宜野座キャンプ第2クール、初日のこと。チーフトレーナー杉本一弘がウオーミングアップ中の藤浪へ歩み寄り、WBC本番に帯同する専属トレーナーの人選をヒアリングしていた。そして、新人時代から藤浪のコンディショニングを担当してきたトレーナー、手嶋秀和の帯同を決定。手嶋は今季2軍担当へ異動になったため異例の措置ではあるが、それでも球団が藤浪の体調管理を最優先させた格好だ。

 5年前、評論家の金本はこうも言っていた。「藤浪は5年後でも大学卒のルーキーと同じ年齢でしょ。今から5年後を楽しみにしておくよ。必ずダルビッシュのようになると思う」。藤浪は大山悠輔、小野泰己ら大卒新人と同じ1994年生まれ。ちなみに、ダルビッシュ有がWBCで1大会最多奪三振記録をつくり、「日本のエース」と呼ばれる存在になったのも、高卒5年目。22歳の春だった。=敬称略=

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