公平なジャッジ

 【2月12日】

 阪神電鉄本社の会長室には毎朝、朝刊各紙が並べてある。執務デスクの上に一般紙2紙、スポーツ紙5紙。阪神電鉄の会長でありタイガースオーナーの坂井信也は、出社するとまずスポーツ紙から手に取る。オーナーなりのルーティンがあるのだろう。最初に広げるのはデイリースポーツだという。

 本社へ新年のあいさつへ伺った先月、坂井から聞かれた。「あなたの連載はいつから始まるんですか?」。キャンプインの2月1日からだと伝えると、「今から仕込みが大変ですね」と励まされた。

 コラムを書くうえで素材集めは欠かせない作業だ。ただ正直に言えば、仕込みには手を焼いた。なぜって、レギュラーがほとんど定まっていないから。とりわけ内野手は取材対象を絞りづらい。合同コーチ会議でキャンプの1、2軍メンバーが振り分けられた1月23日、金本知憲はこう語っている。

 「内野は全部競争。奪い合いですよ。見てみないと、やってみないと分からない。未知数なので」

 坂井が宜野座キャンプを訪れたこの日、シートノックで一塁に入ったのは荒木郁也、中谷将大、板山祐太郎の3人。果たしてこの中の誰かが開幕戦で一塁を守っているのだろうか。米国で一塁、三塁が本職だったエリック・キャンベルは二塁に挑戦中。候補の原口文仁は第2クールから一塁の準備を始めたが、金本曰く「まずは捕手として勝負させる」。マウロ・ゴメスの去ったポジションにメドが立つのはいつ頃だろうか。

 「きょうは12日か…。内野はまだ全然見えてこないよ。これだけ未知数のキャンプは、今まで一度もなかったんじゃないかな」

 第3クール、2日目。内野守備コーチの久慈照嘉はレギュラー白紙の現状を直視する。遊撃も、三塁も、ルーキー糸原健斗が猛アピールする二塁もギリギリまで争奪戦になるだろう。チームには内部事情がある。全て本音をさらけ出すとは思えないが、腹の中で内野陣の青写真があれば教えて欲しい。そう思って金本に聞いてみた。

 「いやいや、本当に全然、決まってないよ。高いレベルの競争であれば歓迎するけどな」

 その表情を見て思う。指揮官はウソをついていない。本心だ。

 坂井は13日の朝、帰阪する。本社に戻れば会長室の液晶テレビでスカイAのキャンプ中継を観ることもあるという。キャンプ出発前、単刀直入に坂井に尋ねた事がある。今回のキャンプで一番楽しみにしていることは何か。オーナーは即答した。「メンバー選びですよ」。話を聞く中で伝わってきた思いがある。現場の首脳陣が「公平なジャッジ」をできるかどうか。坂井はこれに注目していると感じた。例えば遊撃なら金本は「流れは北條」と語っている。でも鳥谷が形勢を覆せば、そのときは公平に鳥谷をレギュラーに戻せるかどうか。他のポジションも同様、仮にレギュラーを確約した選手でも、ダメなら外せるかどうか。坂井は金本に全幅の信頼を置き、開幕メンバーを心待ちにする。=敬称略=

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