恩師が語る近本の原点とエール これからも「一“所”懸命」貫いて

 阪神のドラフト1位ルーキー・近本光司外野手(24)がヤクルト戦の初回に右前打を放ち、1958年に長嶋茂雄(巨人)が作ったセ・リーグ新人安打記録を61年ぶりに塗り替えた。近本にとって兵庫・社高、関学大野球部の先輩にあたるデイリースポーツ阪神担当・井上慎也記者(27)が、橋本智稔元社高野球部監督(52)を直撃インタビュー。井上記者にとっても恩師の橋本氏に、近本の高校時代などを振り返ってもらった。

  ◇  ◇

 -近本がついに長嶋さんのセ・リーグ新人記録を超えた。

 「野球人として長嶋茂雄さんというのは雲の上の存在の方。当時と試合数が違って、比べようのない数字だけれども、そこの数字を超えたというのはたいしたもの。これからも安打を重ねていってもらいたい」

 -私が近本と初めて会ったのは、彼が高校1年、私が大学1年の冬でした。橋本先生から近本の指導を依頼されました。

 「その時はボールが荒れるのが気になっていたし、アーム投げでね。ボールに力はあったから、どうにかしてうまく使えたらいいと思って。同じ左投手だった井上に見てもらった時は、これからチームを支えていく投手の1人として考えていたからね」

 -当時は同級生に右投げのエースがいて、主に野手として起用していましたね。

 「バッティング能力も高く、走るのも含めて身体能力が高かったからね。(公立高校で選手層も薄い)チーム事情としても、あれだけの身体能力を持っていたら、野手として2年生から使わざるを得ない状況だった」

 -人付き合いもうまい選手でした。

 「同級生だけでなく、上級生、下級生からも信用があったし、面倒見もすごくよくて。チームの中での人望が高かった」

 -あまり自分を押し出すタイプではありませんでしたよね。

 「そうだね。プロに入ってから唯一、そこが心配なところでもあった。周りを見るし、考えるし、自分を抑えるところは抑えられる子だったから。辰己(楽天)とは全く違うタイプだった」

 -2学年下の辰己は目立つ選手でした。

 「自分を持っているああいう子がプロ野球選手になるんだろうなと思っていた。近本がドラフトにかかるとは、高校の時は本当に思いもしなかった」

 -印象に残っている試合は。

 「3年生の春と夏の県大会で対戦した神港学園戦かな。中学校の時にバッテリーを組んでいた山本くんがいて。彼と対戦するのはすごく楽しみにしていた」

 -高校通算107本塁打の元神港学園・山本大貴氏の存在は、近本にとって大きかったと思います。

 「対戦の時は見ていてバチバチくるようなライバル意識はあった。近本が1打席目から強く振りにいったのは、神港学園戦ぐらいじゃないかな」

 -高3春には同じ小中学校出身の選手がいた地元の洲本高がセンバツに出場しました。

 「甲子園に友人が出場すると、応援へ行ってもいいと言っていたけど、近本は行かなかった。見かけによらず芯は本当に強かった。お父さんや2人のお兄さんは淡路の高校を出られた中で、1人、地元を離れて社高校でやっていくんだという腹のくくり方を15、16歳でしてね。社に来てくれたのは本当にうれしかった」

 -そういった芯の強さが、体育科の寮長に抜てきされた理由でもあったのでは。

 「他の先生方や上級生の声も聞くと近本がいいということでね。寮長になって、健全な上下関係、仲間意識を作っていってくれたので、安心して寮を任せることができた。人に慕われるのは、優しいだけでなく自分のことがきっちりとできないといけない。寮には野球部だけでなく、バレーやバスケット、陸上など他の競技の生徒もいるし、言葉で言うタイプではなく、背中でというのを近本は示してくれた」

 -高校での3年間を振り返って、改めてどういう選手でしたか。

 「今どきの子にない、ひたむきさがあった。派手なパフォーマンス、プレーをするわけではない。それでも、自分の得意なところを生かして、ブレずにやっていくという選手だった。引かないところもあったけどね。高校で投手としてやり切れたというのはないから、大学で挑戦して。(大学側からは)野手として考えられていただけに、大学入学後も何回か話をした覚えはあるけど。なかなか首を縦には振らなかったね」

 -近本の姿は社高体育科の後輩にもいい手本となっていますね。

 「本当に、スポーツで生きていくという生徒が集まっているからね。そういうところで先輩がやっているのは励みになると思うし、目標にもなる」

 -最後にこれからプロの世界で生きていく教え子に言葉を授けるなら。

 (色紙に明朗・実直・一所懸命と記し)

 「彼にぴったりだと思う。(同校OBの)森脇浩司さん(元・オリックス監督)が後輩たちに送った言葉だけど、まさしく彼らしい。明るいし、実直な姿勢。一所懸命が一生ではなく一つの所というのも彼らしいよね。自分のやれるところでやるんだというのでやって、懸命になる。近本もそうだよというのを、プロの世界で示していってくれればいい」

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