軽バンなのにEV!? ダイハツ「e-ハイゼットカーゴ」に乗って分かった意外な実力 ダイハツ、トヨタ、スズキの3社による共同開発車

2026年2月に発売されたe-ハイゼットカーゴは、軽商用車のBEVとして注目を集めている。本記事ではe-ハイゼットカーゴのバッテリーや走行性能について、試乗を通して評価した。

■軽商用BEVバンマーケットの夜明けが来た!?

2026年2月、当初の予定から約2年遅れて登場した軽商用BEVバンが「ダイハツ e-ハイゼットカーゴ」である。

発売延期の間となる2024年10月には、ホンダ N-VAN e:が先にデビューし、軽商用BEVバンマーケットを切り開いたように見えた。

しかし、軽商用BEVバンマーケットのパイオニアは「ミニキャブ・ミーブ(MINICAB-MiEV)」である。このモデルは、N-VAN e:より約13年前となる2011年12月に発売されていた。

ただ、登場時期が早すぎたことや、三菱が積極的な販売戦略を展開しなかったこともあり、存在感を十分に示すことはできなかった。また、当時は軽商用BEVバンマーケットそのものが非常に小さかったことも理由のひとつだろう。

一方、新型e-ハイゼットカーゴは、軽商用BEVバンマーケットの普及を後押しする存在になりそうだ。その理由は、ダイハツとトヨタ、スズキの3社による共同開発車であること。トヨタの電動化技術と、ダイハツおよびスズキが培ってきた軽バン開発のノウハウを結集して開発されたモデルだ。デザインは各社で異なるものの、3社それぞれのブランドから販売される。

3社の販売網や営業力を生かすことで、市場の拡大も期待できる。ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治))が企業評価の重要な指標となっていることから、中規模以上の運送会社を中心に、軽商用BEVバンの導入が進む可能性は高いだろう。

■e-ハイゼットカーゴはBYD製バッテリーを搭載

新型e-ハイゼットカーゴの開発コンセプトは「暮らしを守る働く車」である。軽バンとしての基本性能を確保しながら、BEVならではの環境性能や給油が不要な利便性、ランニングコストの低さといった付加価値を備えている。

新型e-ハイゼットカーゴに搭載される電動パワートレインは「e-SMART ELECTRIC」だ。ガソリン車と同様に荷室を広く使えるほか、積載時にトラクションを確保しやすい後輪駆動を採用している。前輪駆動のN-VAN e:とは異なるポイントだ。

「e-SMART ELECTRIC」の「e Axle(イーアクスル)」は、モーター、インバーター、減速機を一体化したコンパクトなユニットとなっている。床下には、駆動用の薄型リチウムイオンバッテリーを搭載する。

注目したいのは、バッテリーメーカーだ。当初はトヨタグループのPPES製を採用していると思われたが、実際に搭載されているのはリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を採用したBYD製バッテリーだった。

ダイハツがトヨタグループのPPES製ではなくBYD製を採用した大きな理由は、コスト面にあると考えられる。車両価格の上昇を抑えながら、BEV向けバッテリーの実績が豊富なBYD製リン酸鉄リチウムイオン電池を採用したのだ。

また、BYD製のリン酸鉄リチウムイオン電池は、発火リスクが比較的低いとされ、安全性に加えて商用車に求められる長寿命性も期待できる。

■e-ハイゼットカーゴは空冷式バッテリーを採用

BEVにおいて、バッテリーの温度管理は重要な課題のひとつである。バッテリーは一般的に20~30℃程度が最も性能を発揮しやすく、それ以外の温度では効率が低下しやすいとされている。

例えば、2代目日産リーフは空冷式リチウムイオンバッテリーを採用していた。しかし、夏場にはバッテリー温度の上昇により、安全確保のため出力制限がかかるケースがあり、高速道路では速度が制限されることもあった。

さらに、高温状態のバッテリーを保護するため急速充電にも制限がかかり、30分充電しても十分な電力量を確保できない場合があったという。空冷式は外気で冷却するため、真夏はアスファルトの熱や高い外気温の影響を受けやすく、バッテリー温度が下がりにくいことも課題とされた。こうした経験を踏まえ、現在の日産のBEVでは液冷式や冷媒式を採用している。

こうした空冷式の特性を踏まえると、e-ハイゼットカーゴに空冷式リチウムイオンバッテリーが採用された点は気になるところだ。

ただし、軽商用BEVバンは短距離での利用が中心で、高速道路を長時間走行するケースはそれほど多くない。また、急速充電を利用する機会も限られる。さらに、冷却システムを搭載すると荷室スペースへの影響やコスト増につながるため、空冷式を採用したと考えられる。

液冷式冷却システムを採用するN-VAN e:とは、設計思想の違いが表れている部分といえる。BYD製のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用したことも含め、e-ハイゼットカーゴは商用車として価格競争力を重視したパッケージングを目指したといえそうだ。

■e-ハイゼットカーゴは航続距離でN-VANe:をリード

バッテリーの冷却コストを抑える設計を採用した一方で、e-ハイゼットカーゴのバッテリー容量は、ライバル車であるN-VAN e:を大きく上回る36.6kWhとした。N-VAN e:の29.6kWhと比べると、約24%大きい容量となる。

一般的に、バッテリー容量が増えればコストも上昇する。それでも容量を拡大したのは、航続距離でN-VAN e:に引けを取りたくなかったためだろう。

その結果、e-ハイゼットカーゴの一充電走行距離(WLTCモード)は257kmとなり、N-VAN e:の245kmをわずかに上回っている。

e-ハイゼットカーゴとN-VAN e:のバッテリー容量や航続距離、電費などを比較した。

【ダイハツ e-ハイゼットカーゴ(4シーター)】

・搭載バッテリー容量:36.6kWh

・一充電走行距離(WLTCモード):257km

・電費(一充電走行距離÷バッテリー容量):約7.0km/kWh

・車両重量:1260kg

・ブレーキ:通常の油圧ブレーキ

【ホンダ N-VAN e: e:L4】

・搭載バッテリー容量:29.6kWh

・一充電走行距離(WLTCモード):245km

・電費(一充電走行距離÷バッテリー容量):約8.3km/kWh

・車両重量:1130kg

・ブレーキ:協調回生ブレーキ

単純な比較はできないものの、電動パワーユニットの効率という点では、液冷式バッテリーを採用するN-VAN e:に分がある。さらに、N-VAN e:は協調回生ブレーキを採用し、エネルギー効率の向上も図っている。

一方のe-ハイゼットカーゴは、バッテリー容量を増やすことで航続距離を確保する考え方を採用している。航続距離という同じ目標に対して、両車は異なるアプローチを採っている点が興味深い。

■e-ハイゼットカーゴはガソリン車と同等以上の荷室スペース

e-ハイゼットカーゴは、商用車として荷室の使い勝手を重視して開発されている。BEV化によって荷室が狭くなれば商品力が低下するため、荷室スペースはガソリン車と同等の広さを確保した。

そのため、駆動用バッテリーをできるだけ薄型化し、フロア下へ配置している。バッテリーを厚くすると荷室床面が高くなり、使い勝手に影響することも考慮した設計だ。

一方で、その影響により最低地上高はガソリン車の160mmから130mmへと30mm低くなった。一般的な舗装路であれば十分な最低地上高といえるが、深い雪道や荒れた路面では注意が必要になるだろう。

■ガソリン車から違和感なく乗れることが重要?

e-ハイゼットカーゴの運転席に座ると、まず目に入るのがデジタルメーターだ。今では軽自動車でもデジタルメーターは珍しくないが、軽バンに採用されているのは新鮮に感じる。

まずは、ゆっくりとアクセルを踏み込む。e-ハイゼットカーゴはスムーズに走り出した。

モーターの最高出力は64PS、最大トルクは126Nmを発生する。BEV化によってガソリン車より約300kg重くなっているものの、126Nmの最大トルクを瞬時に発生できるモーターの特性もあり、速度を着実に伸ばしていく。

モーターは本来、最大トルクを瞬時に発揮できるため、力強い加速も可能だ。しかし、e-ハイゼットカーゴはあえて穏やかな加速特性としており、唐突さは感じられない。

これは、幅広いユーザーが運転する商用車ならではのセッティングといえるだろう。個人事業主であればBEVらしい力強い加速感を好むユーザーもいるだろうが、企業では必ずしも同じドライバーが運転するとは限らない。BEVに慣れていない人でも、ガソリン車から違和感なく乗り換えられるよう配慮されている。

アクセルを戻すと、エンジンブレーキのような回生ブレーキが作動する。ただし、協調回生ブレーキではなく、通常の油圧ブレーキを採用している。また、回生ブレーキの強さを調整できるパドル操作や、アクセル操作だけで加減速から停止まで行える1ペダルドライブにも対応していない。

これらはコストを抑えるための判断だと思われるが、BEVらしい先進性という点ではやや物足りなさも感じる。

ガソリン車から乗り換えても違和感なく運転できるという狙いは理解できる。一方で、「e-ハイゼットカーゴだからこそ乗りたい」と思わせるような、BEVならではの魅力がもう少しあると良かったと感じた。

■e-ハイゼットカーゴは軽乗用車を超える乗り心地とハンドリング

ここまでコストダウンにつながる設計について触れてきたが、クルマとしての基本性能はしっかりと作り込まれている。車重がガソリン車より約300kg増加したことに合わせて、タイヤやサスペンション、ブレーキなどは新開発された。

また、衝突時に駆動用リチウムイオンバッテリーが損傷すると発火につながる可能性があるため、バッテリーは強固なカバーで保護されている。このカバーはボディの補強部材としても機能し、ボディのねじり剛性向上にも貢献している。

さらに、重量のある駆動用リチウムイオンバッテリーを床下に配置したことで、背の高い軽バンながらガソリン車より重心が低くなり、コーナリング時の操縦安定性も向上している。

こうした専用部品の採用に加え、ボディ剛性の向上と低重心化によって、e-ハイゼットカーゴの走行性能は大きく進化した。

まず驚かされたのは乗り心地だ。ガソリン車は軽商用バンらしく硬めのサスペンションを採用しており、空荷では路面の凹凸で跳ねやすい印象がある。一方、e-ハイゼットカーゴは多少の凹凸であればしなやかにいなし、不快な揺れを感じさせない。

リヤサスペンションからわずかな突き上げ感は伝わるものの、十分に許容できるレベルだ。むしろ、軽スーパーハイトワゴンのタントより快適に感じられた。荷物を積載した状態では、さらに乗り心地が向上しそうだ。

これだけ快適な乗り心地でありながら、タイヤは小型トラック用のLT規格を採用する。指定空気圧は前輪300kPa、後輪450kPaと高めで、本来なら乗り心地には不利な条件といえる。それでも快適性を高いレベルで実現している点は印象的だった。なお、新開発タイヤは横浜ゴム製だ。

さらに、このタイヤは約300kgの重量増にもかかわらず、摩耗寿命はガソリン車とほぼ同等だという。「BEVはタイヤの摩耗が早い」というユーザーのイメージを払拭する狙いもあるようだ。

ハンドリングも良好である。ボディ剛性の向上と低重心化により、コーナーでは素直にノーズが入り、安定した姿勢を保ったまま旋回する。ステアリングにもう少し手応えがあれば、さらに完成度は高まるだろうが、軽バンとしては十分に満足できるレベルだ。

ハンドリング性能は、軽スーパーハイトワゴンのタントを上回る印象を受けた。さらに、重心高はロールーフのミライース並みだという。

静粛性も高い。BEVであるためエンジン音がないことはもちろん、インバーター音もよく抑えられており、車内は非常に快適だ。ガソリン車のエンジン音やCVT特有の高周波音がないため、乗り換えればその静かさを実感できるだろう。

■e-ハイゼットカーゴのグレード選びは2人乗り?4人乗り?

e-ハイゼットカーゴのグレード構成はシンプルで、2人乗りと4人乗りの2タイプだ。基本的には、自身の使い方に合わせて選べばよい。

4人乗り仕様には、一部の快適装備をまとめたセットオプションが設定されている。電動格納式カラードドアミラーやスライドドアレールカバー、後席用ボトルホルダーなどが用意されており、必要に応じて選択できる。

また、両グレードとも運転席・助手席シートヒーターやLEDヘッドライトなど、実用性の高い装備を標準装備している。

■e-ハイゼットカーゴのリセールバリュー予想

e-ハイゼットカーゴのリセールバリューを予想するのは簡単ではない。

BEVは購入時に多額の補助金が適用されるケースが多く、中古車市場では補助金を考慮した実質的な購入価格が相場に影響する傾向がある。そのため、BEV全体のリセールバリューは総じて低めだ。こうした傾向を踏まえると、e-ハイゼットカーゴもリセールバリューは低めに推移すると考えられる。一方で、ガソリン車のハイゼットカーゴはリセールバリューが非常に高い。

*中古車相場は、2026年7月調べ

▽ハイゼットカーゴ クルーズ(S700系)

・中古車相場(2023年式):約120~140万円

・当時の新車価格:約133万円

・中古車相場に対する新車価格比:約90~105%

2023年式(2026年時点で3年落ち)でも、新車価格に近い価格で流通していることから、その人気の高さがうかがえる。そのため、e-ハイゼットカーゴにも高いリセールバリューを期待したくなる。

しかし、この高いリセールバリューを支えている大きな要因は輸出需要だ。そのため、海外での需要が限定的なBEVでは、ガソリン車と同等のリセールバリューを期待するのは難しいと考えられる。

こうした点を踏まえると、e-ハイゼットカーゴのリセールバリューは低めに推移すると予想する。ガソリン車並みのリセールバリューを前提に購入を検討するのは避けたほうがよいだろう。

■まとめ:プライベートでも使える軽商用BEV

e-ハイゼットカーゴは、乗り心地やハンドリング、静粛性など、走行性能が従来の軽商用バンのイメージを大きく覆す仕上がりとなっている。乗り心地やハンドリングは、軽スーパーハイトワゴンのタントと比べても遜色ないレベルと感じた。

これだけの快適性を備えていれば、商用車としてだけでなく、プライベートとの兼用にも十分対応できる。広大な荷室を生かして車中泊やアウトドアレジャーにも活用しやすく、趣味の荷物をたくさん積んで快適に移動できる点も魅力だ。

なお、乗用モデルのe-アトレーは、さらに静粛性が高められているという。

(まいどなニュース/norico)

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