フルタイムで働き続けても厳しい…シングルファーザー当事者の声から浮かび上がる社会が抱える現実とは

働き続けていても、家族で十分な食事をとることが難しい--。

認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(東京都大田区)が、同法人運営のフードバンク事業『グッドごはん』を利用する低所得のひとり親家庭へアンケート調査を実施した結果、保護者の多くが日常的に自身の食事を削っているなど、切迫した実情が明らかになりました。

本記事では、アンケート調査に加え、正社員としてフルタイムで働きながらも、物価高や十分でない賃金のもとで食事がままならないという、ひとり親当事者の50代男性・誠さん(仮名)へのインタビューを通して、数字だけでは見えにくい暮らしの実態を可視化します。

同事業を利用するひとり親(1818人)を対象に、2026年2月~3月に行ったアンケート調査において、「物価上昇が続く中での暮らしぶり」を質問した結果、「非常に苦しい」(57.7%)と「やや苦しい」(36.2%)を合わせると9割を超えました。

また、同質問で暮らしぶりが苦しいと回答した人に対し、「物価上昇の影響により普段の生活でよくとっている行動」を尋ねたところ、「自分(保護者)の食事の量や回数を減らす」(59.2%)が最も多く選択されました。

■数字の裏側を知るために--当事者へのインタビュー

同法人は2026年2月、当事者の状況を把握するため、フードバンク「グッドごはん」の食品支援を利用するひとり親家庭の誠さん(50代・男性)にお話をうかがったところ、こうした傾向はアンケート調査だけでなく、質的調査として実施した個別インタビューからも確認されました。

関西圏で暮らす誠さんは、介護福祉士として正社員で働きながら、シングルファーザーとして高校生の娘さんを育てています。加えて、70代の母親と、重度の障がいと難病がある妹とも同居し、4人家族の生計を担っています。

■働き続けても、生活は追い込まれていった

誠さんは週5日間フルタイムで勤務し、夜勤にも入る生活を続けています。 

「長年、高齢者施設で働いています。定時で帰れることはめったになく、夜勤は月に6回くらいあります」

20代半ばから介護職に携わり、現在の職場では20年近く働いてきたものの、賃金はほとんど上がっていないといいます。

「物価高の中でも、給料は変わらないままです。しんどいですけど、どうにかやっていくしかありません」

就労による手取りは月におよそ19万円。児童手当や児童扶養手当を受け取っているものの、物価上昇も重なり、家族4人分の生活費を賄うには厳しい状況が続いています。

また、離別した元配偶者からの養育費の支払いはなく、家計を支える収入は限られている中で、誠さんは自治体の窓口にも相談に行ったといいます。

「収入と支出について、市の窓口へ相談に行きました。役所の人と収支を確認したうえで、減免の制度なども検討されましたが、もう該当するものはないとのことでした。ですので、収入を上げるしかありませんが、実際のところ、なかなか上がらない状態です」

誠さんは、収支や公的制度について自治体とともに確認をしましたが、生活費について、これ以上大きく調整できる余地は限られていたといいます。また、長年働いてきた職場で賃金が大きく改善する見通しは立たず、生活を立て直すための有効な選択肢を見出しにくい状況に置かれています。

誠さんのように、賃金が伸びず、物価上昇の影響を受けながら家計のやりくりに困難を抱えているケースは、決して少なくありません。

同法人が実施した先ほどのアンケート調査では、就労している回答者のうち、2025年に「職場で賃上げがなかった」(58.7%)とした人が6割近くにのぼりました。

■食を切り詰める暮らし

物価上昇が続く中で、家計の負担は増し、誠さんは自身の食事を後回しにする日々が続いていました。食品支援を利用する以前、食卓に並ぶことが多かったのは、安価で量を確保しやすい食材だったそうです。

「もやしとニラをスープにして、それでお腹を膨らませることもありました。それからキャベツを1玉買ってきて、家で千切りにして、それをみんなで分けて食べていました」

こうした食事は一時的な対応ではなく、生活の中で繰り返されてきたといいます。

「こちらの食品支援を利用するようになって、お米が食べられるようになりました」

■個人の問題ではなく、構造の問題として

誠さんは、介護職として長年にわたって現場で働き、専門性を積み重ねてきました。しかし、正社員としてフルタイムで働いていても、家族が十分な食事をとれるだけの生活を送ることが容易ではない状況に置かれています。

本事例からは、働き方や賃金水準、物価高といった複数の構造的・社会的要因が重なり合うことで、個人の判断や努力のみでは解消が難しい状態が続き、その影響が日々の暮らしに及んでいることが示唆されます。

また、保護者がひとりで子育てを担う家庭では、次のような状況に直面するケースも少なくありません。

・働ける職種や時間に制約が生じやすく、収入を増やすための選択肢自体が限られやすい

・仮に、転職など環境を変える選択を検討した場合でも、収入が一時的に下がる、雇用が安定するまでに時間を要するなど、生活に直接影響するリスクを伴う可能性がある

生活がすでにぎりぎりの状態にある立場で、こうした状況やリスクを打開して暮らしを再建することは、容易ではありません。

このような状況は、決して個人の選択や努力の結果として生じているものではなく、社会構造のあり方によって生み出されている側面があります。その結果として、生活費の中でも比較的調整しやすい食費を削らざるを得ず、保護者が自身の食事を抜いたり、子どもに十分な食事を用意したくても難しい状況が、現実として生じています。

低所得のひとり親家庭を対象とした無償の食品支援を2017年より継続している同法人は、「現場では支援を必要とする家庭の増加を強く実感している。配付拠点の拡充や、支援世帯数の拡大は喫緊の課題」と指摘。

一方で、「支援を必要とする家庭が増え続けないためには、同じ社会の中で生じている困窮した暮らしの実態を知り、それを個々の家庭の問題として捉えるのではなく、社会全体の課題として認識することが不可欠」としています。

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【出典】

▽認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン/ひとり親家庭の収入・暮らしの状況に関するアンケート

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