「ここではないどこかに行きたかった」29歳独身 田舎の閉塞感に苦しみ繰り返す転職 1歩踏み出した勇気から見えてきた自分の道【漫画】
令和の時代になっても、田舎特有の閉塞感は抜けきれません。しかし、そんななかでも自分たちの「好き」を突き進む人たちがいるようです。漫画家・イラストレーターの赤松かおりさんの作品『地方女子 孤軍奮闘』では、地元の田舎に住み続ける独身女性の生き様が描かれています。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、前後編あわせて約3700のいいねが寄せられました。
29歳のよしこは、周囲に田んぼと民家しかない田舎の会社で働いています。職場では、いつになっても中学・高校の人間関係のしがらみから抜け出せない様子です。よしこは都会といった広い世界に踏み出すこともできず、かといって地元に馴染む生き方もできずに窮屈に感じていました。
よしこはいつも仕事がうまくできず、長くて1年程度で職場を転々としています。その悩みを先輩に話すと、「ここで暮らしていくんやったら一才でも若いうちに結婚した方がええ」とアドバイスをもらいました。
仕事が続かず貯金もないよしこは、親の知人の紹介でお見合いをします。お見合い相手に付いてきた男性の母と姉は、よしこと結婚する前提で話を進めていきます。男性の母は敷地内同居を勧め、「祭りの当番になると役員が家に集まって宴会するから助かるわ~」と話しました。
よしこの地区でも、行事があると男性は座って料理を食べて良いのですが、女性陣は座る暇もなく宴会の奉仕を求められるのです。よしこは一切話さない相手の男性に「問題が起きても何もしてくれなさそう」と思ったことと、家のことをする付属品みたいに扱われたくないと思ったことから、この縁談を断ります。
また別の日には、よしこが友人から合コンに誘われます。しかし、人見知りが影響しうまく喋れませんでした。その後合コンにいた男性から、よしこの好物であるカレーのお店に誘われますが、正体はマルチ商法の勧誘で心から疲れ果ててしまいます。
そんなよしこに転機が訪れたのは、隣町でカレーのイベントです。イベントに興味を持ったよしこは実際に行ってみることにしました。会場では、サングラスにターバンを巻いた女性が美味しそうにカレーを食べており、よしこは思わず笑顔がこぼれます。
よしこ自身も元気をもらったため、カレーが美味しかったことをスケッチブックで伝えたいと思い立ちます。色鉛筆を握るのは久々のため、絵は下手でしたが、自分にとって宝物のようなカレーの絵ができあがりました。
ふと、よしこはこの絵をカレー屋にプレゼントしたらどうかと思い立ちます。「でもそんなん迷惑かも…」と悩みますが、よしこは思い切ってカレー屋にプレゼントしに行きました。するとコワモテの店長は「おいしそうやな~!」と大喜び。
やがてよしこは隣町のローカルウェブサイトを見るようになり、ここに「私のカレーイラストが載ったら楽しそう」とダメ元で問い合わせてみることにします。するとウェブサイト運営者から返信があり、一度会って話すことに。しかもこのウェブサイト運営者は、以前カレーイベントで出会ったサングラスにターバン姿の女性だったのです。
最初は会話が弾まず、よしこは困惑しますが、カレーのイラストの話になると女性は「絵からスパイスの香りまで感じられて運命感じちゃいました!」と目を輝かせます。
東京から移住してきたという彼女によると、サイトにイラストを載せるのはOKですが、報酬は出ないそうです。彼女みたいに行動すれば何かできるかもしれないと思い、よしこはこの条件を承諾します。
その後、よしこはアルバイトをしながら、休憩中にコツコツとイラストを描くことにしました。同僚からは「お金がでえへんのやったら意味ないやん」「絵見たけどうまくいく感じせえへんもん」と言われ悩みます。
「もっと若くて才能があったら絵だって上手くなれるはず」「根性があれば就職だって続いたはず」と、今までよしこは「どうせダメなんやから」と心に言い続けてきました。でも、自分をダメだと思うのはつらいこと。せめて絵だけでも続けられたらと思い、よしこは筆を進めました。
そしてついに、よしこの絵が隣町のローカルウェブサイトに掲載されました。「形になったらこんなにうれしいんや」と喜ぶよしこに、1通のメールが届きます。それはカレーフェスのイラストを見た人から、なんと書籍イラストを描いてほしいとの依頼だったのです。
よしこは、自分なりに好きなことを追い続けていれば、好きなことも向こうから寄ってきてくれると感じました。なんとなく気になる程度でも、その「なんとなく」を大切にすれば、いずれ自分の道は見つかるのかもしれません。
読者からは「好きなことを続けるって強い」「あたたかい気持ちになった」など、よしこの奮闘する姿に応援の声が寄せられています。そこで、作者の赤松かおりさんに話を聞きました。
■「地方にいながら自己実現していく姿」を描いてみたいと思った
-同作を描いたきっかけについて教えてください
最近は『地方女子たちの選択』といった書籍も出版され、地方に生きる女性の生きづらさが話題になることも増えてきました。
ただ、その多くが「都会に出ていくことができた女性」の視点から語られているように感じています。一方で、さまざまな事情から地方に留まりながらも、自分なりのかたちで生き方や仕事を模索している人もたくさんいます。
そうした視点の物語は、まだあまり多くないではないかと思い、「地方にいながら自己実現していく姿」を描いてみたいと考えたのがきっかけでした。
-作品のなかには、赤松さんの体験なども含まれているのでしょうか?
私自身も地方出身で、実体験や日々感じていることをベースにしつつ、周囲の方のお話も参考にしながら物語を組み立てています。
コロナ禍でリモートワークや地方移住が広がったことで、「場所にとらわれずに働けるかもしれない」という感覚を持つようになりました。そうした実感は、主人公にも反映されています。
-この作品で、読者に特に伝えたかったメッセージを教えてください
私のモットーは「好き is power」です。根拠があるというよりも、これまでの経験の中で、なんとなく実感してきたことです。
最初はコスパや効率とは関係なく、ただひたむきに「好き」に向かっていくことで、思いがけない出会いやつながりが生まれることがあると感じています。すぐに結果が出なくても、その積み重ねが、あとから思いもよらない形で道につながっていく。この作品を通して、そんな感覚を少しでも感じて頂けたら嬉しいです。
また、Xでは日々の出来事をマンガにまとめていますので、ぜひのぞいてみて下さい。
(海川 まこと/漫画収集家)
