急死した父 高級腕時計とパソコンを形見分け…1カ月後に届いた800万の借金督促状に驚き! 相続したとみなされ返済義務が発生?【行政書士が解説】

急逝した父の部屋で、Aさんは思い出に浸っていました。父は独り身で質素な生活を送っていましたが、唯一の趣味だった高級腕時計と、まだ新しいノートパソコンが机に残されていました。「これは父が大切にしていたものだから」と思ったAさんは、それらを「形見」として他の相続人にことわったうえで自宅に持ち帰りました。

ところが1カ月後に事態は一変します。Aさんのもとに消費者金融から、父に800万円の借金があるという督促状が届いたのです。驚いたAさんはすぐに相続放棄の手続きを検討しましたが、専門家から「すでに遺品を持ち帰り、形見分けを行っているため、相続放棄が認められない可能性がある」と告げられ、絶望の淵に立たされます。

良かれと思っておこなった「形見分け」が、なぜ相続放棄を不可能にする原因となってしまうのでしょうか。相続手続きに詳しい北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■「単純承認」とみなされる行為

ー形見分けをすると、相続放棄ができなくなる可能性があるのでしょうか?

形見分けにより、相続放棄ができなくなる可能性があります。民法では「法定単純承認」というルールが定められており、相続人が亡くなった方の財産を「処分」すると、その時点でプラスの財産もマイナスの借金もすべて引き継ぐことを認めた、とみなされてしまうためです。

名目が「形見分け」であっても、価値のある遺品を他の相続人の了解を得て自分のものにする行為は、遺産分割として財産の「処分」にあたります。一度単純承認したとみなされると、後から多額の借金が発覚しても、原則として相続放棄が出来なくなります。

ー形見分けとして許される範囲と、アウトになる境界線はあるのでしょうか?

「一般的経済価値」がある遺品の「処分」はアウトというのが最高裁判所の基本的なスタンスのようです。地方の簡易裁判所では、その遺品の一般的経済価値の有無は相続財産総額との比較で、もはやその相続人に相続放棄の意思がないと認められるかによる、という基準のもと和服15枚、ハンドバック4点、指輪2個を共同相続人のひとりに引き渡した行為が「処分」にあたると判断した例があります。

一方で交換価値を失う程度に着古した上着とズボンを元使用人に引き渡した行為は「処分」にあたらないと判断した高等裁判所もあります。Aさんが持ち帰った「高級腕時計」や「新しいパソコン」は、交換価値のある資産の遺産分割といえそうです。

ー部屋を片付けただけでも、相続放棄ができなくなるケースはあるのでしょうか?

単なる「清掃」や、放置すると腐敗してしまう生ゴミの廃棄などは、財産の「保存行為」として考えられるでしょう。しかし、少しでも「売れそうなもの」をリサイクルショップに売却したり、安価なものであっても大量に形見として配ったりすれば、その時点で「処分」とみなされるリスクがあります。

いずれにせよ、借金の有無が不明な場合は「遺品には手を触れない」ようにしたほうが無難なようです。

◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士

長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス