自主的サビ残が常態化…労基署が立ち入り調査! 「残業ではなく勉強」「本人が勝手にやったこと」は通用しない?【社労士が解説】

夕方18時、責任感の強い中堅社員のAさんは静かに席を立ち、タイムカードを押しました。そして再びデスクに戻ると、パソコンの電源を入れ、新しいプロジェクトの資料作りを再開します。

日中は打ち合わせに追われ、本来の業務が進まないAさんは「自分のスキルが足りないから時間がかかっているだけ。会社に残業代を求めるのは申し訳ない」と考えます。その結果、Aさんは毎晩2時間、自主的に「勉強」という名目で作業を続けていました。

上司が「無理をしないで」と声をかけても、Aさんは「自分が好きでやっていることですから」と笑顔で返していました。ところが事態は思わぬ方向へ転がります。

ある日、労働基準監督署の調査が入り、パソコンのログイン履歴とタイムカードの記録に大きな乖離があることが発覚してしまったのです。

Aさんの会社で起きたトラブルのように、サービス残業には法的リスクが多いのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

■善意の残業が「帰りづらい職場」を作る

ー会社にとって、社員のサービス残業を認めることにどのようなリスクがありますか?

最も大きなペナルティは、労基署からの是正勧告による多額の未払い賃金の支払いです。今は忠誠心から「いらない」と言っていても、数年後に退職して心変わりした際に「あの時の残業代を払え」と訴えられれば、会社は一気に窮地に立たされます。

さらに深刻なのは、職場環境への悪影響です。特定の人がサービス残業を当たり前のようにしていると、周囲は「定時で帰りづらい空気」を感じるようになります。サービス残業が慣習化すれば、優秀な人ほど愛想を尽かしてやめてしまうでしょう。結果として、会社全体の生産性を大きく引き下げる要因になるのです。

ーサービス残業が常態化することで、個人の仕事の質にも影響が出ますか?

日本の労働生産性が低い一因は、ここにあるのではないかと考えます。仕事の質の低さやスピードの遅さを、サービス残業という時間で補おうとするマインドが、多くの日本人に根付いてしまっているのではないでしょうか。

本来であれば、8時間で10の成果を出す人が評価されるべきです。しかし日本では、9時間かけて10の成果を出す人が「頑張っている」と評価される風土が未だに残っています。これではいつまで経っても生産性は上がらないでしょう。サービス残業は、会社にとっても本人にとっても「百害あって一利なし」です。

会社に貢献したいのであれば、サービス残業をするのではなく、「決められた時間内に仕事を終わらせる」というプロとしての責任を果たすことをおすすめします。

ー本人が「自主的にやっている」と言っても、法的には労働時間とみなされますか?

会社のパソコンを使い、会社の中で作業をしている以上、それは問答無用に「労働時間」とみなされます。

特に今の時代、パソコンのログイン履歴やメールの送信ログを取れば、働いていることは一目瞭然です。会社側が「本人が勝手にやったことだ」と主張しても、その状況を知りながら黙認していたのであれば、会社による指揮命令下にあったと判断されます。

本人がどれほどうれしい気持ちで貢献しようとしていても、法律の世界では通用しません。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表

大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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