「まっすぐに歩けない、なでられるのも初めて」…繁殖リタイア犬とは? 目を合わせなかった犬が気持ちを伝えるまで

「繁殖リタイア犬って、どんな子?」

そんな問いかけとともに投稿された1本のInstagram動画が、多くの共感を呼んでいる。投稿したのは、ビションのまる(蘭丸)ちゃん(9歳)と、元繁殖犬のプードル・まめ(マチルダ)ちゃん(8歳)と暮らす飼い主さんだ。

白くて小さく、見た目は愛らしいまめちゃん。しかしその背中には、長い年月の“経験”が刻まれているという。

■ 子犬と並べられていた「5年前生まれ」の犬

まめちゃんとの出会いは、大型ショッピングモール内のペットショップだった。子犬たちと同じケースに入れられていた小さな白い犬。体が小さいため一瞬は気づかなかったが、胸の奥がざわついたという。

値札を見ると、誕生日は5年前の日付。価格も驚くほど安かった。

「子犬とは明らかに違う表情と動きでした。戸惑ったような顔で、ものすごい速さでくるくる回っていたんです」

後に元繁殖犬だと知る。長い間、狭い場所で過ごしてきた名残かもしれないと感じた。怒りというよりも、言葉に詰まるような感覚。疑問と複雑な思いが胸に広がった。しかも誕生日が自分と同じ日だった。放っておける存在ではなくなっていった。

■目が合わなかった日々

お迎え当初、まめちゃんはなかなか目を合わせなかった。「どこを見ているのだろう」と思うような視線。目が悪いのかと疑ったほどだったという。

ご飯は毎回完食するのに、おやつにもおもちゃにも無関心。寝るときも横にならず、座ったままうとうと。体重は2キロに満たないほど小さかった。

「ガラス細工に触れるような気持ちで接していました」

戸惑っているというより、必死に新しい環境に順応しようとしていた。その姿を思い出すと、今でも胸が熱くなるという。

■“初めて”だらけの外の世界

一緒に暮らし始めてすぐ、この子は散歩をしたことがないのだと分かった。まっすぐ歩けない。リードを怖がる。外の音や風にびくつく。まずは抱っこ袋で外の空気に慣らすことから始め、家の中でリードの練習、バギー体験へと少しずつ世界を広げた。

「はじめての事ばかりの中、必死で受け止めようとしていました」

長年の環境の影響か、今も激しく走り回ることはない。それでも、まめちゃんなりに一歩ずつ進んでいる。

■「必要なのは“時間”と“心の余白”」

投稿で綴られた「トレーニングでもしつけでもなく、“時間”と“心の余白”が必要」という言葉。その背景には、まめちゃんの姿がある。

「できないことを早くできるようにさせるより、まずは安心して過ごせる時間を重ねたい」

人間の都合で急がせない。できないことを責めない。それはまめちゃんのためであり、飼い主自身が忘れてはいけない姿勢だと感じている。

■目を見てくれるようになった日

今、まめちゃんはしっかりと目を見て話を聞こうとする。朝になると窓辺へ行き「開けて」とアピール。散歩も上手ではないが、「外に行きたい」という気持ちを伝える。おやつも覚え、まるちゃんの真似をして「ちょうだい」と訴える。

「ユニークになったのではなく、もともとそういう子だったんだと思います」

安心できる毎日の中で、本来の姿が少しずつ現れてきた。

■ “理不尽な仕組み”と向き合う

繁殖リタイア犬の問題は、すぐにはなくならない現実がある。

「守られるべき命が、利益のために消費される構造に強い悔しさを感じます」

しかし怒りだけでは変わらない。迎える側が背景を知り、その子のペースを信じることが何より大切だと飼い主さんは語る。

「心から安心して眠れて、穏やかに過ごせる子が一頭でも多くいてほしい」

窓越しに日差しを浴びるまめちゃん。その静かな姿は、“時間”が確かに心を癒していることを教えてくれる。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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