家計の強い味方「もやし」…実は種子は海外頼み かつては中国に依存、最近はミャンマー産が躍進
一袋30~50円。野菜売り場で値段を見るたび、「本当にこの値段で大丈夫?」と思いながらも、ついカゴに入れてしまうのがもやしです。ラーメンや鍋にも炒め物にも使える便利な食材で、かさ増しにも便利。けれど、そのもやしの“もと”になる種子が、ほぼすべて海外からの輸入に頼っていることは、あまり知られていないかもしれません。
工業組合もやし生産者協会に話を聞くと、ここ数年で種子の調達先に大きな変化が起きていると言います。財務省の貿易統計を見ると、2025年のもやし用種子の輸入先は、中国が44%、ミャンマーが40%。5年前の2020年は中国が75%、ミャンマーが24%なので、この変化は劇的。わずか5年で中国依存度が3割以上も下がり、ミャンマー産が倍近くに増えているのです。さらにさかのぼると、2005年には中国が87%を占めていて、ミャンマーはわずか12%。つまり、この20年で調達先の構図が大きく変わったのです。
■日本国内で種子を作れない理由
もやし用種子は中国産とミャンマー産で何か違いはあるのでしょうか。協会によると、「粒の大きさに大きな違いはありませんが、発芽率は中国産の方がやや良い」とのこと。さらに、中国産の方が根が白く、日持ちもしやすい傾向があるそうです。品質面だけを見ると、中国産にやや分がある、というのが率直なところのようです。
それでもミャンマー産が増えている背景には、価格や安定供給といった事情があります。特定の国に依存しすぎるリスクを避けるため、業界では新たな産地開拓を続けています。マダガスカルやウズベキスタンなど、新顔の産地も登場しているといいます。
ここで素朴な疑問が湧きます。「それなら日本で種子を作ればいいのでは?」…しかし、それが難しいのです。理由のひとつが土壌です。日本の土は、実は“良すぎる”のだそうです。農業には強みですが、もやし用の種子栽培には向かず、品質や収量が安定しないのだとか。さらに、収穫期に雨が降ることは致命的で、雨季と乾季がはっきり分かれていない日本の気候は、種子栽培にそもそも向いていないそうです。そして何より、採算が合わず、国内で作ろうとすれば、コストが跳ね上がってしまうのです。
■一袋30円を支える、もやし業界の工夫
もやしは屋内栽培のため天候に左右されません。しかも仕込みから出荷まで約1週間から10日。短期間で計画生産でき、ロスも少ない。この効率の良さが低価格を支えています。ただし前提は「種子が安定して手に入ること」。そこが揺らげば、価格にも影響が出ます。
では、仮に種子の輸入に支障が出たら、どうなるのでしょうか。協会は、「消費者にもやしを安定供給することが大前提です。多少高騰しても調達しますし、新産地の開拓も続けています。調達に支障が出ないよう、常に手を打っています」と話します。ただ、これは裏を返せば、種子価格が上がれば、もやし価格も上がるということです。
さらに、「長年、原料種子の高騰や光熱費・賃金の上昇で厳しい状況が続いてきました。やっと数年前から価格転嫁ができる環境になりましたが、それでも物価・賃金上昇が続いており、決して楽ではありません。全国の消費者様への安定供給を維持するためにも、ぜひもやしを買ってください」との言葉には、切実さがにじんでいました。
一袋30~50円という価格の裏には、種子の安定調達、新産地の開拓、コスト削減など、生産者の並々ならぬ努力があります。中国依存は減りましたが、種子の海外依存という構造は変わりません。スーパーで何気なく手に取るもやし一袋にも、日本の食の依存構造が映し出されているのです。
■実は3種類ある、もやしについて
ところで、もやしには主に3種類あることをご存じでしょうか。スーパーで一番よく見かけるのが緑豆もやしです。国内流通の9割以上がこれ。軸が太くてシャキシャキしていて、炒め物に向いています。ブラックマッペもやし(黒豆もやし)は細めで甘みがあり、関西でよく食べられているそうです。そして大豆もやし。これは豆がついたまま食べるタイプで、ビビンバやナムルでおなじみ。栄養価も高く豆の食感が楽しめます。
新鮮なもやしの見分け方も教えてもらいました。色が白くて張りがあり、袋を持ったときにパリッとした感触があるものが良いそうです。子葉が薄黄色をしているかもチェックポイント。根や子葉が茶色かったり、袋に水が溜まっていたりするものは避けた方がいいとのこと。ちなみに、袋に空気が入っているかどうかは鮮度とは関係ないそうです。
保存は冷蔵室へ。野菜室より温度が低い方が向いています。出荷前に洗浄されているため基本的に洗う必要はありませんが、気になる場合は軽くすすいでも問題ありません。
ところで、「もやしは生で食べられるの?」という質問をよく聞くそう。「日本では、もやしは加熱調理することを前提に生産しています。海外とは衛生基準が違いますし、何より加熱した方が青臭さがとれて美味しいんです」。つまり、生食は推奨されていないということ。ラーメンや炒めもの、鍋物など、日本では昔からもやしを加熱して食べる文化が定着していますし、生産者もそれを前提に作っているわけです。
もやしは種子が発芽する過程で、それまでなかった栄養素が新たに生まれます。デンプンや脂肪、タンパク質が分解され、再構成されていく。発芽という現象は、意外と奥が深いのです。
もやしは安さの象徴のような存在ですが、その背景には海外依存という現実があります。中国依存は減ったとはいえ、種子のほぼ全量は輸入頼み。何気なく手に取るもやしですが、その軽さの裏側に、思いのほか大きな話が隠れているのかもしれません。
(まいどなニュース特約・鈴木 博之)





