NSXってこんなサイズだったっけ? 軽S660を伝説のモデルへ大変身…東京オートサロンでミニスーパーカーが話題
国内最大級のカスタムカーイベント「東京オートサロン」。2026年は3日間で27万人以上が来場し、出展社数は389社、展示車両は856台と、例年にも増して熱気に包まれました。会場を一通り見て回り、「今年はこんなものかな」と思い始めた頃、思わず足が止まりました。目の前にあるのは、どう見ても初代NSX。でも……小さい。「あれ、NSXってこんなサイズ感だったっけ?」と、しばらく頭が追いつきませんでした。
近づいて確認すると、車両の前に置かれたスペックボードには「ベース車両:ホンダS660」の文字。軽自動車のS660が、あの伝説のスーパーカーNSXに変身しているのです。しかもこれ、単なる見た目のコピーではありませんでした。株式会社WONDERが手がけた「NS660」。代表の山際氏に話を聞くと、この車には驚きの技術と、スタッフの熱い想いが詰まっていました。
■NSXの90%サイズに縮小
NS660の特徴は、そのサイズ感です。全長・全幅・ホイールベースは、初代NSXの約90%。単なるミニチュアではなく、スーパーカーとしての「ワイド&ロー」の黄金比を、日本の軽自動車規格ベースで成立させています。車検証データを比較すると、その変貌ぶりがよくわかります。
もともとS660の全長は339cm。正直、軽自動車らしい「詰まった感じ」は否めません。NS660ではここを一気に46cm伸ばし、全長385cmに。数字だけ見ると大きな差ではないように思えますが、実車を前にすると印象はまるで別物です。全幅は147cmから163cmへ16cm拡大。片側約8cmずつのワイド化により、軽自動車(黄色ナンバー)から小型乗用車(白ナンバー)へと変身しました。この16cmが安定感とコーナリング性能、そしてただ者ではないオーラを生み出しています。会場でも、その迫力あるワイドボディに多くの来場者が足を止めていました。全高は逆に3cm低くなって115cm。ノーマルS660でも118cmと十分低いですが、さらにローダウンすることで、地面に張り付くようなスーパーカーのスタンスを強調しています。
「90%という絶妙なサイズ感が、このプロジェクトの肝です」と山際氏は語ります。大きすぎれば取り回しが悪くなり、小さすぎればオモチャのようになってしまいます。NSXの雰囲気を損なわず、かつS660の軽快さも残す。この絶妙なバランスを追求した結果が、90%という数字だったのです。
■軽自動車ベースで170ps、パワーウェイトレシオはNSX並み
見た目だけでなく、走行性能も本家NSXに肉薄しています。実は、WONDERには2台のNS660があります。1号機はノーマルエンジン、ノーマルドア仕様ですでに構造変更申請を完了し、白ナンバーを取得して公道を走っています。東京オートサロンに展示されたのは2号機で、同じく三重県に店を構える『トップフューエル』によりエンジンを170psまでパワーアップ。
ここで注目すべきは、パワーウェイトレシオです。車両重量840kgに対して170psということは、パワーウェイトレシオは4.94kg/ps。これは本家NSXの数値4.82kg/psとほぼ互角なのです。「見た目だけでなく、走り出しの加速感でもかつてのスーパーカーの興奮を蘇らせるポテンシャルを秘めています」と山際氏。サイズは小さくても、パワーウェイトレシオで本家に並ぶということは、理論上、非常に近い加速性能を持つことを意味します。
しかも車両重量は、ノーマルS660の830kg(6速マニュアル)からわずか10kg増の840kg。通常、これだけのワイドボディやエアロパーツを装着すれば、重量は数十kg増えるのが当たり前です。しかしNS660は、後述する「ボルトオン構造」を活かすことで、驚異的な軽量化を実現しています。「サイズは普通車並み、重さは軽自動車のまま。これがNS660の最大の武器です」。
■構造変更申請することで公道走行可能
「ここまで改造した車は公道は走れないんでしょ?」と思った人も多いはずです。しかし、NS660は構造変更の申請をすれば公道走行が可能です。構造変更とは、車両の長さ、幅、高さなどを変更した場合に、運輸支局で検査を受ける手続きのこと。NS660の場合、全長と全幅が軽自動車規格を超えているため、普通車として登録し直す必要があります。軽自動車税の優遇は失いますが、その代わりに堂々と「普通車のスーパーカー」として公道を走れるのです。
ただし、2号機は現在サーキット専用のセッティングで運用しているため、まだナンバー登録はしていません。しかし、この車両も公道走行が不可能なわけではありません。サーキット用に落としている車高やテールライトのLEDなどを保安基準に適合するよう調整すれば、問題なく車検を取得し、公道仕様としてナンバー登録が可能だといいます。
■ボディ切断はしないから着せ替えが可能
NS660が革新的なのは、「車体を切断しない」ことです。「偉大な名車である初代NSXへのリスペクトが大前提です」と語る山際氏。開発の動機は、S660の「構造的なメリット」と「時代のニーズ」の合致だといいます。昨今、スポーツカーの価格は高騰し、愛車の資産価値も重視される時代になりました。従来のワイドボディ化は、車体を切断してフェンダーを溶接で延長する手法が主流でした。しかしこの方法は車体へのダメージが大きく、一度施工すると元に戻せません。
しかしS660は、リアクオーターなどの外装パネルがボルトで脱着できる珍しい構造を持っています。つまり、車体にメスを入れることなく、パネルを交換(着せ替え)するだけで劇的な変身が可能なのです。
1号機のエアロキットは、税込143万円で受注生産にて販売しています。フロントバンパー、リアバンパー、ボンネット、サイドステップ、ワイドフェンダー、テールランプなどはセット販売の他、単品でも購入可能。さらに、エアロキットには車検対応マフラーも含まれます。「143万円と聞くと高く感じるかもしれませんが、車体を切断せずにここまで変身できる、しかも10kg増で済むキットは他にありません」と山際氏。しかも、ボルトで固定するだけなので、DIYでの取り付けも可能(ただし構造変更申請は別途必要)です。ショップに依頼すれば確実ですが、メカに自信のある人なら自分で組むこともできるでしょう。
■ヘッドライト、シザーズドア、リアテールライトはスタッフの協力で完成
NS660の開発で苦労したのが、ディテールの作り込みだったといいます。特にヘッドライト、シザーズドア、リアテールライトには、スタッフの並々ならぬ努力がありました。中でも注目すべきは、リトラクタブルヘッドライトの復刻です。「現代において『リトラクタブルヘッドライトの造形』を本気で開発し、市販化まで漕ぎ着けたのは、少なくとも日本国内では初、世界的に見ても極めて稀な挑戦ではないかと自負しています」と山際氏。リトラクタブルヘッドライトは、1990年代のスポーツカーの象徴でした。しかし歩行者保護の観点から、現代の新車には採用できません。つまり、この造形を現代に復刻させるのは、常識外れな挑戦なのです。公道を堂々と走れる仕様にするため、あえて開閉ギミックを持たない「固定式」を選択しました。「リトラクタブルの美しいノーズライン」と「現代の保安基準」という、本来なら矛盾する要素を両立。固定式にすることで、ヘッドライトの位置や光軸を保安基準に適合させ、車検対応を実現しました。
シザーズドアには、S660用として品質と実績のあるリザルトジャパン(Result Japan)製のキットを採用。ただし、S660用製品をそのまま使えるわけではありません。NS660はワイドフェンダーを装着しているため、フェンダーを加工して取り付ける必要がありました。
リアテールライトには、本物の初代NSX(NA1)の新品パーツを使用。「NA1のテールランプ、まだ新品が出るんですよ。だから思い切って殻割りして改造しました」。テールランプの殻を分解し、内部にLEDを仕込んで動きのある点灯を実現。そのイメージ源は「NA1が現役だった、当時のオートサロン」だといいます。「あの頃の会場では、デモカーが派手にライトを点滅させてアピールするのが流行っていましたよね? ストロボ、ネオン管、水槽みたいなのもありました。その懐かしい『ショーカースタイル』を現代のLED技術で再現し、当時の熱気を表現しました」。
正直なところ、「ここまでやるのか」と思いました。テールランプとシザーズドアの仕上げは、年末年始を返上しての作業だったそうです。その話を聞いたとき、この車がただのショーカーではないことが腑に落ちました。
■1号機は10時間耐久レースでも完走できるほどの耐久性を証明
NS660は、見た目だけのショーカーではありません。実戦でも証明されています。2025年8月に開催された「K4-GP FUJI 10時間耐久レース」に参戦しました。このときエントリーしたのは、ノーマルエンジンの1号機です。K4-GPは、軽自動車やコンパクトカーによる耐久レースシリーズ。「燃費と耐久性を最優先し、エンジン本体はノーマル仕様でエントリーしました」と山際氏。K4-GPは非常に奥が深く、単に「速い車が勝つ」わけではありません。限られた燃料でいかに走り切るかという「燃費とスピードのバランス」が勝敗を分けるのです。「実は今回のレース中、一時GP-3Fクラスで2位にまで浮上し、トップ争いに食い込む場面もありました。しかし、終盤は燃料残量が厳しくなり、完走を優先してペースを落とさざるを得ず、最終的には8位という結果になりました」。「速さだけでは勝てない」という難しさを痛感したといいますが、それでも10時間43分を走り切ったという事実は重いものです。NS660のボディキットが、見た目重視のドレスアップではなく、実戦に耐える剛性と空力性能を持っていることの証明です。
■取り付け、塗装、車検込みで約450万円のコンプリートカーも販売
初代NSXは、1990年に登場した本格スーパーカーで、アイルトン・セナも開発に関わった伝説的な車です。しかし現在、程度の良いものは1000万円を超える価格で取引されています。しかし、NS660なら、ベースの中古車両のS660が150万円前後で購入でき、エアロキットを自分で塗装、取り付けられるのなら、合計300万円程度でNSXスタイルを手に入れられます。また、WONDERでは、NS660のコンプリートカーの製作も受け付けていて、取り付け、塗装、車検込みで約450万円。もちろん本物ではありませんが、90%のサイズ感のスーパーカーを味わえるのです。しかも、車体を傷つけない「着せ替え」方式なため資産価値も守られます。いつでもノーマルに戻せるし、気分によって仕様を変えることも可能。東京オートサロンに現れたミニNSXは、単なる見た目のコピーではなく、車を傷つけずに夢を実現する新しい発想のカスタムカーでした。スタッフの情熱と技術力、そしてS660の構造的メリットが融合して生まれたNS660。「あの頃、NSXに憧れていた自分」を思い出させてくれる車であることは確かです。NS660は、理屈より先に感情が動く、そんな珍しい存在でした。
▽WONDER
https://wondergroup.jp/
(まいどなニュース特約・鈴木 博之)




