【ばけばけ】「おトキと同じ道は歩けん」 俳優・円井わんの飛び抜けた「受け」の演技が制作陣に作らせたサワの人物造形
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)第17週「ナント、イウカ。」が放送され、トキ(髙石あかり)の親友・サワ(円井わん)は庄田(濱正悟)から求婚されたが、彼女はそれを断るという選択をした。
ヘブン(トミー・バストウ)と結婚して以来、松江の有名人となって一挙手一投足に人々の関心が集まるトキに対して、サワはモヤモヤとした感情を抱いていた。トキや、身請けにより遊郭を辞めて天国町を出ていった元遊女のなみ(さとうほなみ)とは違い、サワは「私は自分の力でここを出ていくけん」と固く心に誓うのだった。
正規教員の資格を取るために猛勉強するサワに、帝大出身で中学の教員免許を持つ庄田が勉強を教えていた。そんな中、ふたりは自然と惹かれあう。庄田はサワと結婚して野津家の借金を返すために、松江中学の英語教師になることを決め、彼女にプロポーズをする。しかしサワはこれを受けることができなかった。
ありがちな展開ならば、トキ、なみに続いてサワも結婚して長屋から出て、めでたしめでたし…となりそうなところだが、そうはならないところが『ばけばけ』らしい。この展開に及んだ理由と、サワの物語が出来上がっていった経緯、そして、演じる俳優・円井わんの魅力を、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。
■ヒロイン役は逃すも、CPからラブコールを受けた円井わん
橋爪さんによると、サワの人物造形は俳優・円井わんの演技によって作られたところが大きいのだそう。円井は一昨年『ばけばけ』のヒロインオーディションを受けており、惜しくも主人公・トキ役には選ばれなかったものの、橋爪さんは円井の演技に惚れこみ、「絶対に何かの役で出演してほしいから、スケジュールを空けておいてほしい」と頼んだという。かくして円井は、トキの親友・サワという重要な役にキャスティングされた。
■円井わんと髙石あかりの演技が掛け算になって…サワとトキはベストコンビ
橋爪さんは円井の俳優としての魅力について、こう話す。
「円井さんは『受けの芝居』から増幅させていく演技力が飛び抜けていると思いました。『相手役の演技を勝ち抜かしてやろう』みたいなところがひとつもなくて、ただただ、人間として、リアルな反応を返す。引いた目で見ると、あっさりしたお芝居に見えるかもしれませんが、よく目を凝らして見ていると、本当に『人間らしさ』というものが出ている。半年という長い時間をかけて『ばけばけ』という物語を見終えたとき、あらためて『サワの芝居がちゃんとつながっている』という感動を味わうことができると思います」
「そんな円井さんの持ち味を活かし、サワ役を演じてもらいました。円井さんは髙石さんのようなタイプの役者さんとペアを組むと、互いの演技が掛け算になって、魅力が指数関数的に倍増するんです。本当に素晴らしい組み合わせの『サワとトキ』だと思っています」
■「前向きに溌剌と」というよりは「そうせざるを得なかった」
主人公のトキは、ある意味周りに流されて、運命を受け入れて、自分の道を決めてきた人物だ。対して親友のサワは、運命に抗う人。かつてなみが言っていた「おなごが生きていくには、身を売るか、男と一緒になるしかない」という、おおかたの明治の時代の女性にとっての“順当”からは外れる道を選ぶ。こうしたサワの人物造形について、橋爪さんは語る。
「『自分の力でここを出ていく』と言って、小学校の代用教員となったサワが、女性の地位が低かった明治時代に自分の力で地位を勝ち取っていく…というストーリーだけを見れば、『朝ドラヒロイン的』な道筋にも見えます」
「でもサワは、『目標に向かって前向きに溌剌と突き進む』というよりは、そうせざるを得ないという状況なんですよね。貧しい家で病弱な母を養いながら借金も返さなくてはならない。さらに、『自分の力でここを出ていく』という、自らの宣言が自分を縛りつけているところもあって。本当に教師をやりたくてやっているのかも、正直なところ、よくわからない」
「だけど、親友のトキがシンデレラストーリーに乗っかって川の向こう側へ行ってしまったために、自分にはそれを真似することができない。そんな『生きづらさ』を抱えた人間らしいところがサワの魅力だし、ふじき脚本が描き出す人物の魅力だと思います」
■「明治という時代に、他とは違う選択をした女性はどう動くんだろう」
現在放送している後半以降のサワのエピソードは、脚本作りの序盤ではまだ決めていなかったとのことで、クランクイン後に円井の演技を見て、サワのその後の物語が決まっていったという。橋爪さんは、
「サワは、主人公のトキとは逆の道を選ぶ親友で、ある意味『もうひとりの朝ドラヒロイン』のような存在である、という概要しか決まっていなかったんです。『サワの物語はその後どう進んでいくんだろう』『明治という時代に、他とは違う選択をした女性はどう動くんだろう』と、あれこれ考えながら、答えを明確に出せぬまま進んでしまったキャラクターでした」
「しかし、僕もふじき(みつ彦)さんも序盤の円井さんの『人間らしさ』が出たお芝居を見て、『一見朝ドラヒロインっぽいんだけど、そうじゃない』というサワの造形がふくらんでいって。トキに嫉妬して意地悪をする、という筋立てもあり得たかもしれませんが、やはり円井さんの演技を見ていると、『そうじゃないよね』と。時代や、自らの境遇や、自分自身の言葉にも縛られながら、不器用に、愚直に生きていくサワの物語ができていきました」
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次週、18週「マツエ、スバラシ。」では、トキをある試練が襲う。サワは、そんなトキに対してどんな行動をとるのだろうか。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)





