数十年使われない実家の子ども部屋 卒業アルバムを捨てようとしたら…「捨てちゃダメ!」と老親が思わぬ態度 卒アルは宝物?ゴミ?
実家の片づけをしていると、捨てるかどうか迷うものがいくつも出てきます。その中でも、とくに悩ましいのが「卒業アルバム」です。子にとっては過去の記録でも、親にとってはかけがえのない思い出。世代ごとの価値観の違いが、思い出の扱いに表れます。
■子ども部屋に残された「思い出の山」
大学進学を機に地方の実家を出たRさん(50代・男性)。高校卒業から数十年が経ち、子ども部屋はほとんど当時のままでした。学習机には古びた文集やペン立てが置かれ、本棚には参考書や使いかけのノートが並んでいます。閉ざされていた部屋に入ると、籠った熱と、かび臭い匂いがしました。高齢の両親から「整理してくれ」と言われて本棚の下段を開けてみると、出てきたのは幼稚園から高校までの卒業アルバムでした。
自分にとっては正直なところ「過去の産物」です。卒業時に自分が何組だったのかすぐに思い出せず、自分の顔すらなかなか見つけられません。記憶を遡って手繰り寄せながら、一緒に訪れていた妻と子どもを呼び、「おれの小中高の時の写真見せてあげるよ」と言ってみたものの、誰も興味を示しません。「これはもう必要ないな」と思い、まとめて処分しようとしたところ、すかさず両親からストップがかかりました。
「それは捨てちゃダメ。大切な思い出なんだから」と。
■捨てられない「親の宝物」
このやりとりは、世代間の価値観の違いを如実に表しています。親にとっては、わが子の成長を記録した唯一無二の証拠であり、思い出のかけらです。とくに幼稚園や小学校のアルバムには、子どもの愛らしい笑顔や行事の様子が収められており、「捨てる」という選択肢がそもそも存在しません。しかし当の本人からすれば、見返す機会はほぼゼロです。どこに保管されているかも分からないまま、大半は実家の押し入れや納戸に眠り続けているのではないでしょうか。
実はこの「卒業アルバム問題」、多くの家庭で直面しています。調査によると、日本人の約7割が「卒業アルバムを実家に置きっぱなし」にしているそうです(※)。その理由の多くは「持って帰っても置き場がない」「見返さないのに重い」というものです。アルバムは厚手の紙を使用しているため、一冊あたりの重量は意外とあり、幼稚園から高校まで揃えると段ボールひと箱分になることも珍しくありません。
(※)千株式会社「卒園・卒業アルバムに関する意識調査」2025年7月
https://sencorp.co.jp/11351/
■結局は自宅に持ち帰り…
Rさんは、こうした状況を打開する方法として見つけたのが「卒業アルバムのデジタル化」です。最近では、アルバムを丸ごとスキャンしてPDFやクラウドに保存してくれるサービスも登場しています。データであれば実物を処分しても記録は残り、収納スペースも不要です。
さらに、顔認識機能を使って同級生を検索できるアプリまで開発されており、同窓会の案内などにも活用され始めています。時代の流れとともに、卒業アルバムは「見るための本」から「データ資産」へと変わりつつあるのかもしれません。
とはいえ、データ化にはお金がかかります。結局「そこまでの必要はないな」ということで、Rさんはアルバムを自宅に持ち帰り、処分することに決めました。数枚をスマホで撮影し、アルバム本体は両親に内緒で処分したそうです。
■思い出は誰のもの?
結局のところ、卒業アルバムを捨てるかどうかの判断基準は「それを誰が大切にしているか」に尽きます。子ども本人が不要でも、親にとっては宝物である場合、その思いを無視して処分するのは難しいものです。
Rさんの両親は、自分たちは「捨てたくないけど置いておきたくもない」という複雑な立場でした。だからこそ「持って帰れ」と押し付けられるのです。親子の間で価値観が揺れるのは、卒業アルバムが単なる紙の集合体ではなく、「時間の結晶」として存在しているからでしょう。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)





