髪がない私は“かわいそう”なの?…治らない自分を責め、反発した日々 3歳で脱毛症を発症した女性が、母の愛情に気づくまで【漫画】
親子関係において、親の愛情を感じながらも、それが重荷と感じてしまうことは少なくありません。3歳で汎発型脱毛症を発症した羊と狼さんは、母親の献身的な治療への取り組みに対して、感謝よりも「髪のないそのままの私は受け入れてもらえない」という歪んだ想いを抱くようになってしまいました。
何をしてもらっても”治れない”自分への罪悪感と、ありのままを受け入れてもらえない寂しさ。そんな複雑な心境から、最終的に母親の深い愛情に気づくまでの物語『「髪が無かった、ただそれだけのこと」~治したい母と治れない私~』が注目を集めています。
母が羊さんの脱毛に気づいたのは3歳のひな祭り。円形脱毛はどんどん増え、あっという間になくなったといいます。だから、物心ついた頃にはカツラ生活が始まっていました。痛みも生命の危険もないものの、「カツラだとバレたらどうしよう…」という恐怖が、日常に付きまとっていました。
母は私を治そうとさまざまな病院を巡り、それによって治療費が家計を圧迫していきます。母が履いている何度も繕った靴下を見ては「もっと笑っていてほしかった」と幼い心に感じていました。
時は経って小学5年生のとき、クラスメイトの前で羊さんのカツラが外れるというアクシデントを経験しました。羊さんはこの時、笑われるのはつらいけど「かわいそう」と思われることの方がつらいと感じました。「出来損ない」のレッテルを貼られているようで、悲しかったからです。
また、隠される存在であることの寂しさも知りました。反抗期には母親の「治したい」想いさえも責められているように感じ、自分の「普通」が人と違うことで強い劣等感を募らせていくのです。
そんなある日、母親と出かけた先でステキなワンピースと出会います。「私の趣味じゃない」と反抗しても、「着てみないとわからない」と食い下がる母親。試着すると「やっぱり、可愛い」と嬉しそうな母親の久しぶりの笑顔が見られました。
自身の劣等感もあって、気軽にはワンピースを着ることはできませんでしたが、あの時の母親の一言が、ねじれた気持ちをほぐしてくれたのは事実です。
高校生になると羊さんは友だちにも恵まれ、遅い青春を楽しみました。人並みに恋愛をして、結婚もしたのです。結婚後も何かと連絡をしてくる心配性の母でしたが、「カラオケを習い始めた」とか「油絵をはじめた」などと、自分の生活を楽しむ様子もうかがえて安心していました。
そんなある日、風邪気味だといっていた母親の病気が、深刻な状態だと連絡がきました。病院でも、相変わらず娘の治療先を探す母親は「大丈夫、百まで生きるから」といっていました。でも母親は、十日後に亡くなってしまったのです。
数カ月のあいだ、母親がいないと実感することはできませんでしたが、ふと母を思い出したある日、心から泣くことができました。遺品整理では、確かに愛されていた自分を感じることができたのです。
同作は「髪が無かった、ただそれだけのこと」というタイトル通り、外見の違いによる生きづらさを経験しながらも、母親の愛情と自分自身の成長を通じて、ありのままの自分を受け入れる姿を描いた感動的な物語です。この物語を生み出した作者・羊と狼さんに話を聞きました。
■「髪のないそのままの私は受け入れてもらえない」と思っていた
-この体験を漫画にしようと決めたきっかけは?
母がしてくれていた治療への取り組みに対して、感謝よりも「髪のないそのままの私は受け入れてもらえない」という歪んだ想いを強く持ってしまっていました。心が幼い頃に刻まれた記憶は強く、自分の中にある母に対するネガティブな想いを、漫画に書き出すことで整理したかったのだと思います。
-お母様との関係を描く上で、苦労した部分は?
幼い私と対峙している時の母を悪者にしないように気をつけました。
反抗期が酷く母とは衝突してばかりで、関係が軟化したきっかけを思い出すのに苦労しました。
-過去の感情と改めて向き合うのは辛くなかったですか?
辛くはなかったですね。何故自分を「価値のない人間」だと思ってしまったのかを紐解くことができたので、描いた時はスッキリしていました。
急な来客があると母から違う部屋に行くように言われ、自分は隠される存在なのだということにとても傷ついていました。そして自分から率先して隠れるようになり、髪のない私は価値が無いと強く刷り込まれていったんです。
-汎発型脱毛症について、読者に理解してもらうため気をつけた点は?
髪がないだけで体は元気であり、見た目だけの病気なのでイマイチ理解されないところがあります。精神的な苦痛がともなうこと、ハゲやカツラはお笑いやバカにされるアイコンになりがちなので、そういった風潮で本人の自己肯定感がとても低くなることは知って欲しいと思いました。
-読者からの反応で印象に残っているのは?
「髪の無い私」が主人公の話として書いた漫画ですが、最終的には「どこにでもいる普通の母と娘の話」として受け入れていただき、沢山の共感をいただけたことがとても嬉しかったです。
もし私に髪があったとしても、私と母は何かしらのことで衝突していたのだろうと想像できます。髪が無いことは特別なようで特別では全然なかったという着地点を目指していたので、普通の親子の話として受け入れていただけたことが嬉しかったです。
(海川 まこと/漫画収集家)





