新婚ほやほや女優 やや難読の名字の起源は? 江戸時代には旗本だけで16家が名乗った名門
9月26日に公開された映画「オオムタアツシの青春」で、初めての主演を務めている俳優の筧美和子。「筧」と書いて「かけい」と読むのはやや難読だが、俳優には他に筧利夫もいることから正しく読める人も多いだろう。
では、そもそも「筧」とはなんだろうか。
江戸時代以前は、今のように各家まで水道管が通っているわけではない。従って、生活に必要な水は、川や用水路、上水などから引いていた。こうした水を引くための導管を「ひ」といい、「樋」という漢字を当てた。いまでは「とい」と言われることが多い。
この「ひ」は引き方によって大きく2つに分けられる。
地上に導管を渡した「ひ」を「かけひ(懸樋)」といい、地中に埋めた導管を「うずみひ(埋樋)」という。地上を通した方が簡単なため「かけひ」の方が多く、節を抜いた竹筒を導管として使用したことから竹冠の「筧」という漢字をあてた。
こうした「かけひ」に因んだ名字が「筧」で、各地に広く分布しており、江戸時代にも旗本だけで16家もあった。
従って、「筧」の読み方は本来「かけひ」である。しかし、「幸ひ」と書いて「さいわい」と読むように、旧仮名遣いでは「ひ」を「い」と読むことが多く、「筧(かけひ)」という名字は次第に「かけい」とも読むようになった。
現在、「筧」は愛知県を中心に東海地方から関西にかけて多く、なかでも愛知県一宮市に集中している。一宮市にはかつて筧口という小字があった。おそらく川から筧に水を引いた取水口に因む地名で、名字の「筧」もこの筧に因んでいるのだろう。
今では愛知県と三重県では、「筧」という名字は圧倒的に「かけひ」と読むことが多いが、両県以外では読み方が「かけい」と「かけひ」にわかれており、やや「かけい」が多い。
全国を合計すると「かけひ」が多くて名字ランキングでは3000位台、一方の「かけい」は4000位台で、いずれも普通の名字の範疇である。なお筧美和子は東京出身で、東京でも「かけい」が多い。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら研究を続ける。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえっ!」のコメンテーターを務めた。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。





