食器をカチャカチャ、マジックテープをバリバリ…“音”が猫の発作の引き金に!?「トムとジェリー症候群」ノート13冊に綴られた闘病の記録

ちょっぴりドジな猫のトムと賢いネズミのジェリーがドタバタ劇を繰り広げる「トムとジェリー」は、猫好き以外にも広く知られている有名なアニメ作品。実は、そんなキャラクターたちの名前を用いた「トムとジェリー症候群」という病気がある。

この病気は、特定の音に対して猫が発作を起こすというもの。正式には「猫科動物聴覚原性反射発作(FARS)」と呼ばれている。

テルさんの愛猫ジジちゃんは、猫科動物聴覚原性反射発作の可能性が高かった。家族は闘病記を綴りつつ、ジジちゃんの守り方を考えたという。

■タウン誌で里親募集されていた保護猫を迎えて

2005年の秋、長男さんが「猫と暮らしたい」と言い出したことから、家族は出会いを探し始めた。ジジちゃんは保護猫。タウン誌の里親募集ページに掲載されていた子だった。

「ツンツンしていて大人には媚びませんが、子ども思いな性格。よく、息子たちを守るように寄り添っていました」

ジジちゃんが特にかわいがったのは、次男さん。母親気分になっていたようで、窓から雨が降り込み、次男さんの顔が濡れた時には必死で舐めていたそうだ。

異変が見られたのは、お迎えから16年ほど経った2021年12月のこと。ジジちゃんは突然、お腹がギュルギュル鳴ったり嘔吐したりするようになり、食欲も減少。体温も低下して、寒そうな素振りを見せるようにもなった。

「今振り返れば、症状が現れる前の2021年3月から自宅付近でマンション建設が始まったので、ストレスがあったと思います」

■3回の痙攣発作で肝を冷やした日々

激しい嘔吐時、深夜に救急病院を受診すると低カリウム症と診断され、大きな病院への受診を勧められた。大きな病院では入院して点滴治療を受けたが、退院後の2022年5月、ジジちゃんは痙攣。

 再び低カリウム症であると診断され、3日間入院治療を受けた。だが、2022年6月、2回目の痙攣発作が…。そこで獣医師と相談し、「フェノバール」という抗てんかん薬を少量、使用することになった。

だが、この薬はジジちゃんには合わなかったよう。服用後に足元がふらつき、転んでしまったため、獣医師と相談して服薬を中断した。

ジジちゃんは2022年7月、3回目の痙攣を起こす。どうにかして痙攣を止めてあげたい。そう思った家族は獣医師と相談し、「イーケプラ」という人間用の抗てんかん薬を使用し始めた。

薬は1日3回、8時間ごとに服用。家族は胃腸に負担をかけないよう、ジジちゃんが食べてくれるウェットを探し、あげ方も工夫した。

「繊維が残っているウェットフードだと吐き戻しが多かったので、フードプロセッサーでトロトロにし、水で割っていました。腹持ちが悪いので、1時間ごとに10gを目安にあげていました」

■特定の音に反応して発作が起きる「猫科動物聴覚原性反射発作」を疑って…

奥さんはジジちゃんの病状や日常の様子、治療の経過などをノートに記録。その中で気づいたのは、発作が特定の音に反応して起きているという事実だった。

ジジちゃんが反応するのはマジックテープのバリバリ音、アルミホイルをクシャクシャにする音、食器のカチャカチャ音、扇風機のボタン音、納豆のパックを開ける音。それらを聞くと、頭がビクビクして発作が起きていた。

そうした症状から家族は猫科動物聴覚原性反射発作を疑い、音に配慮しながら生活をするようになったそう。

「猫を呼ぶ時にやりがちな舌鳴らしや掃除機のコードを引っ張り出すコンコン音なども聞かせないようにしました」

また、ジジちゃんの場合は腰を強めにトントンすると、調子がよさそうに感じられたという。家族は体温が低いことを気遣い、ジジちゃんの腰に低温のカイロを年中貼り、保温に努めるようにもなった。

薬を飲ませつつ、こうした配慮を行った結果、ジジちゃんの発作は止まったそう。今はイーケプラやステロイド薬、胃腸薬を服用しつつ、自宅で皮下点滴をして健康を維持している。

■ ノート13冊分にも及ぶ“愛猫の闘病記録”

「病名が広く浸透していないことや、お腹がギュルギュル鳴る症状が合致しなかったため、動物病院では猫科動物聴覚原性反射発作と確定診断することが難しかったのだと思います。ジジの場合はイーケプラを飲んだらお腹のギュルギュル音が止まったので、医師から、お腹の音は胃腸の部分発作だったのだろうと言われました」

テルさんは今もウェットフードを1時間ごとに10gずつジジちゃんにあげ、食事でも健康を管理している。

「ウェットフードと一緒にドライフードを1日3回、1gずつあげるようになりました。食欲不振の時には病院で処方された食欲刺激剤のミラタズ軟膏を塗ると、食欲の鬼と化してくれます」

テルさんは、この病気と向き合う中で闘病日誌を綴ることの大切さを痛感した。初めての発作が起きてから3年経った今、奥さんが書き留めてきた闘病記はなんと、ノート13冊分にも及ぶ。そこには日常の様子なども書かれているため、診察時には獣医師から感謝され、診察がスムーズに進んでいるという。

「加齢で音が聞こえにくくなったので、症状が落ち着いた部分もあると思っています。愛猫に原因不明の発作が見られた時には、特定の音に対する反応もチェックしてほしい」

なお、闘病を経て、ジジちゃんは性格がガラっと変わったそう。ツンツンだった病気前とは打って変わり、テルさんや奥さんにデレデレな甘えん坊猫に。

「定期的に「ニャー」と鳴きながら近寄り、腰をトントンしてとせがむ。昔は、こんな猫じゃなかったのに(笑)」

猫は物音に敏感な生き物であるからこそ、飼い主としては、まだまだ謎が多い猫科動物聴覚原性反射発作の知識も得ておきたい。情報を知ることは、愛猫の健康を守ることに繋がる。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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