「私人逮捕」を悪にしてしまった? YouTuberの何が問題だったのか…豊田真由子「違法な"正義"動画は見ないように」

“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberが問題になっています。今般、チケット不正転売の疑いをかけて追いかけ回す動画をYouTubeに上げた行為が名誉棄損の疑いで、覚せい剤の共同所持や使用を持ちかけた行為が覚醒剤取締法違反(所持)の教唆容疑として、“私人逮捕系”YouTuberがそれぞれ逮捕されました。

彼らの行動の問題点は、そこにとどまりません。

一連のどういった行為が、法律上どう問題があるのか。報道により「過剰でなければよい」「犯人であればSNSに晒してよい」といった誤った風潮が広がり、あるいは逆に、被害者救済等に貢献するはずの、適切な「私人逮捕」にまで悪いイメージが広がってしまうことは、日本の社会にとってもマイナスと思われますので、ここで全体像を整理してみたいと思います。

   ◇   ◇

【ポイント】

▽そもそも「私的制裁」は認められない。

▽犯人だからといって、SNSに晒してよいわけではない。

▽「私人逮捕」は、犯罪事実が明白な場合に、必要かつ相当な限度で行わねばならない。

▽「私人逮捕」でやってよいことは、あくまでも一時的に身柄を拘束することだけ。おとり捜査や取り調べ等はできない。

▽“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberの行為自体が、刑法等に違反する場合も多い。

   ◇   ◇

(※)各法律の規定の解釈や事例への当てはめ等については、さまざまな学説や判例があり、また、法律上の構成要件に該当する場合でも、実際に捜査・起訴・有罪とされるかどうかは、個々の事例によります。本稿はあくまでも、一般の方向けに「“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberの問題点」に関する法律論を、分かりやすくご説明する趣旨のものです。参照条文は、まとめて末尾に載せております。

■そもそも、根本的な発想に問題がある

“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberの行動原理のひとつとされる、「犯人(と思われる人)を捕まえて、『SNS等に晒す』ことで、制裁を課し、同種の犯罪の抑止力とする」という発想自体に、大きな問題があります。

法治国家である日本においては、「私的制裁」は認められません。

なにかしらの罪を犯した人であったとしても、「法律に基づいて、きちんと警察が捜査し、検察が起訴し、裁判所が有罪として量刑を決定する」という慎重で適正なプロセスを経ることによって、罰が科されることになります。正当で公的な権限の無い人が、自己判断で人を捕まえて制裁を加えるようなことは、判断や罰の内容の妥当性が全く担保されず、人権は容易に侵害され、社会の秩序を保つことができなくなります。法律の定める手続によらなければ、人の自由を奪い、刑罰を科されることがあってはならないのです。(憲法31条)

こうした点について、今週出演した番組でも、「痴漢や盗撮といった犯罪については、私人逮捕をして、SNSにのせることで、抑止力にすることが望ましいのでは」というご意見がありました。確かに、お気持ちは十分理解できるところではあるのですが、仮に犯人であったとしても、抑止力を発揮する手段としての私的制裁は認められませんし、SNSに晒すことは、後述するように、名誉棄損罪等に該当する場合もあります。

ただ、そうは言っても、巧妙化し頻発する痴漢や盗撮等の現場に、警察官等が居合わせてくれることは稀ですから、被害者救済のためには、私人逮捕(犯行事実が明白な現行犯である場合に、必要かつ相当の限度で、一般人が一時的に犯人の身柄を拘束すること)を、周囲の方が協力して行うといったことは、意義が大きいと思うのですが、その場合でも、あくまでも要件を満たす場合に限って、適切に行われることが必要ですし、「SNSに晒す」ことは認められません(なお、それが実は冤罪であったといった場合には、犯人とされた人の名誉や生活等の回復が著しく困難で、取り返しのつかない問題となるということは、言うまでもありません)。

周囲の方の適切な協力、そして、警察や鉄道会社等によるパトロールや、各種防犯・啓発活動など、多方面から引き続き有用な対策が講じられることが強く望まれます。

■SNSに晒すことの問題点

これもごちゃまぜに論じられている感がありますが、「私人逮捕」と「その場面をSNSに晒すこと」とは、全く別の話です。たとえ、私人逮捕が適切に行われ、本当に犯人であったとしても、同意なくその姿をSNS等に晒すことは、肖像権やプライバシー権の侵害、名誉棄損(刑法・民法上)、民法上の不法行為として損害賠償責任が問われる可能性等があります。

刑法の名誉棄損罪の構成要件は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」すること(刑法230条)ですが、これは、実際に犯罪を行っている人の名誉も保護の対象となります。刑法は「事実の有無にかかわらず」としており、真実を暴露した場合でも、名誉毀損罪が成立します。

名誉棄損罪は、①事実に公共性があり、②公益目的で、③事実が真実であると証明される場合には、違法性が阻却されることになっています(刑法230条の2第1項)。

「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」(刑法230条の2第2項)とされていることから、本当に犯人であった場合に①を満たす可能性はあるとしても、再生回数を上げ自身の広告収入を増やす、あるいは、私的制裁を加えるといったことが、②公益目的であると認められるのは難しいでしょうし、③真実性についても、冤罪の場合はもちろんのこと、例えばチケットの不正転売(「業として」行っている反復継続性が必要)のようなケース等、警察のきちんとした捜査を経ずに、その時点では犯罪に該当すると判断することは困難な場合が多いでしょう。

なお、テレビ等では、警察が逮捕・移送する被疑者の映像が流されますが、あれは、現行犯逮捕ではなく通常逮捕(警察がきちんと捜査をし、裁判所に令状を請求し、発付された令状をもって行われる逮捕)で、主として重大事件等に関するもので、メディアには公共性や公益目的が認定される場合が多く、“私人逮捕系”YouTuberとは大きく異なります(ただし、「推定無罪」の原則に照らせば、犯罪に関するメディアの報道にも、全く問題が無いとされているわけではありません)。

また、鉄道会社では、「動画共有サイトへの投稿など、個人の営利活動につながる撮影行為はお断りする」(東京メトロ、JR東日本)としているところもあり、その点でもルール違反ということもいえると思います。

■私人逮捕には厳しい要件がある

“私人逮捕系”と言われますが、彼らが行っているのは、法律で認められた適切な「私人逮捕」とはいえない場合も多いと思われます。

「逮捕」は、人の身体を拘束するという重大な人権・自由の制限であり、原則として、裁判所の令状をもって、警察・検察等によって行われなければならず、一般人による逮捕は、例外的な場合、すなわち「現行犯として犯罪事実が明白な場合」に、「必要かつ相当な限度内の実力行使」によって行うことが認められたものです。(憲法33条、刑事訴訟法213条)

現行犯とは、「現に罪を行い、又は、現に罪を行い終わった者」であり、さらに、犯人として追跡・呼び立てられている者や、財物や明らかに犯罪に使った凶器を所持している者等が、「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」には、「準現行犯」として、現行犯とみなされます(刑事訴訟法212条)。

そして、「私人逮捕」として行えるのは、あくまでも「現行犯の身体を一時的に拘束すること」であり、捜査や差押等の権限の無い一般人には、その前後の、例えば、犯罪を誘発させる“おとり捜査”のようなことや、つかまえた後に、スマホ等を無理やり取り上げるといったこともできません。そして、直ちに被疑者を警察官等に引き渡すことが必要です。

こうした要件を満たしていない場合に、“私人逮捕”をすると、逮捕・監禁罪(刑法220条)等に当たる可能性もあります。

また、「私人逮捕」の際に、「その際の状況からみて、社会通念上、必要かつ相当と認められる限度内の実力の行使」(最高裁判例昭和50年4月3日)とは認められない状況で、ケガ等をさせた場合には、傷害罪や逮捕等致死傷罪等や、また、民事上の損害賠償を求められる場合もあり得ます。「現行犯の犯罪としての軽重、犯人からどのような抵抗を受けたか、犯人に対して行使した有形力の程度、犯人が負った怪我の程度」等の状況を総合的に判断して、適法であったかどうかが判断されることになります。

今回、「私人逮捕」についての認識が社会に広まることで、純粋な正義感から、自分もやってみようと考える方がいらっしゃるかもしれません。

上記のような点に留意いただくとともに、現行犯からの抵抗や反撃にあって、ケガをしたり、命を落としたりする危険性もあり、日頃の鍛錬や的確な状況判断が必要な、リスクのある行為であることは、ご認識いただく必要があると思います。

■視聴者が反応しないことが大事

“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberには、上記で述べてきたような様々な問題があり、その行為自体が違法である場合も少なくありません。結果として、捜査機関の手間を増やしたり、犯罪を誘発したりもしています。

承認欲求の充足や再生回数による広告収入という収益を目的としている場合も見受けられます。問題が生じた場合に、YouTube等のプラットフォーマーによる広告やアカウントの停止といった措置は取られてきてはいるものの、(致し方ないことですが)、必ずしも、すべてにおいて、迅速確実な対処がなされているとは言い難い状況です。

こうした中、なによりも「需要」が「供給」を拡大させる、こうした動画を見る人がいると、ますますそれを提供しようとする者が増える、という面があります。したがって、視聴者の方々としては、こうした動画は見ない・無視する、という態度が、非常に大切になってくるのではないかと思います。

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「犯罪の無い、平和で治安の良い社会」は、誰しもが望むところです。良好な治安の実現には、警察等の取締りや、国・自治体の対策や社会環境の整備といったことだけではなく、私たち国民一人ひとりの防犯意識、地域での協力、他者への関心といったことも非常に大切になってきます。

家族や地域のつながりが希薄化していくと言われ、特殊詐欺や白昼強盗、薬物問題等、巧妙化・深刻化する様々な犯罪の増加が懸念される中、“私人逮捕系”“世直し系”のような「私的制裁」という誤った形ではなく、安全な社会の実現への関心や実効的な取組みが、社会に広まっていくことが求められます。

■【参考】参照条文

〇憲法

第33条

何人も現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されない

   ◇   ◇

〇刑事訴訟法

第212条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。

② 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。

一 犯人として追呼されているとき。

二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。

三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。

四 誰何されて逃走しようとするとき。

第213条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

   ◇   ◇

〇刑法

(正当行為)

第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

(逮捕及び監禁)

第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

(逮捕等致死傷)

第221条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

(名誉毀き損)

第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)

第230条の2 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)

第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

   ◇   ◇

〇不正転売防止法

(定義)

第2条 (略)

4 この法律において「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。

(特定興行入場券の不正転売の禁止)

第3条 何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない。

第9条 第三条又は第四条の規定に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。 

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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