ビッグモーター「社長の絶対君主制」「まるで刑務所」の社風に影響が?経営コンサル会社を取材

「経営陣に盲従し、忖度する歪(いびつ)な企業風土」。中古車販売大手ビッグモーターによる保険金水増し請求問題の一因を、特別調査委員会はそう指摘した。前社長の兼重宏行氏ら経営陣が徹底して社内で浸透を図った経営指針。その背景に、とあるコンサル会社の存在が取り沙汰されている。

■社員が「幸せだなあ!」と唱和

ビッグモーター次期社長の和泉伸二氏は先月25日の会見で「行き過ぎた業績管理、不合理な目標設定、頻発する降格人事、こういったものにより徐々にいびつな企業風土を作ってしまった」と発言した。

そのいびつな企業風土を象徴する一つが、同社が全社員に配布していた「経営計画書」という手帳の内容だ(現在は撤回)。「幹部には部下の生殺与奪権を与える」など上意下達を重視する文言のほか、「(社員が)毎日口に出して言う言葉」として「幸せだなあ!俺はツいてる!」といった言葉も並ぶ。現場の社員は毎朝一同に会し、こうした内容を唱和させられていた。

また、社員が「環境整備」と呼ばれる過剰なまでの清掃・整理整頓に苦しめられていたことも調査委により明らかになっている。本社幹部が定期的に各工場を訪れ、状態を点検。話題の“除草剤散布”もこの環境整備の一環だった。「社長の絶対君主制」「まるで刑務所」。元社員らから証言が次々と飛び出し、その全容が少しずつ明らかになっている。

■コンサル会社のセミナー・研修に参加

「経営計画書」「環境整備」という、聞いたことがあるようでない二つの言葉。このフォーマットを推奨し、ビッグモーターとの関係が取り沙汰されているのが、経営コンサルなどを手がける株式会社武蔵野(東京)だ。ダスキンの東京第1号加盟店として清掃関連の事業などを長く手がけ、現社長の小山昇氏が就任してからは経営コンサル事業にも注力。これまで経営指導に携わった企業は750社で、うち450社が過去最高益を達成(同社ホームページから)し、小山氏は「中小企業経営のカリスマ社長」として多数のメディアに露出している。同社は、ホームページのトップでも経営計画書・環境整備の重要性について説いている。

同社ホームページにある主要な取引先企業の一覧に、ビッグモーターが名を連ねている。ビッグモーターとの関係について武蔵野に質問を送付したところ、以下のような回答があった。

Q.貴社サイトの「お取引先企業様」の一覧にビッグモーターも含まれていますが、経営指導をされていたという認識で間違いありませんでしょうか。また、時期はいつ頃からでしょうか。

A.弊社主催の研修・セミナー等にご参加いただいていたという経緯です(※時期については明らかにせず)

Q.ビッグモーターの「経営計画書」は貴社の監修・指導のもと作成されたものでしょうか。

A.経営計画書作成につきましては、セミナーにご参加頂いた事はございます。セミナーでは、作成する意味・目的、またその概要について説明しております。またセミナー参加後に作成された経営計画書は、弊社では把握しておりません。

Q.ビッグモーターの特別調査委員会の報告書によると、現場が無理な努力目標や自己啓発を強いられ、パワハラまがいの行為が横行していた実態も明らかになっています。貴社として、関わった企業でこうした状況があったことについて、どのように受け止めておられるか見解をお聞かせ願えますでしょうか。

A.無理な努力自標や自己啓発を強いるような事、ましてや、パワハラまがいの行為を誘発するようなことは、あってはならないものと考えております。

つまり、ビッグモーターが武蔵野から経営計画書や環境整備について学んだことは事実だが、報道されているさまざまな内容については直接関与していないという趣旨の回答だった。では、ビッグモーター経営陣が学んだ経営哲学とはどのような内容なのか?

■ビッグモーターが学んだ“思想”

多くの企業で実績をあげている武蔵野の経営哲学・思想とはどのようなものなのか。例えば朝礼のやり方を例にとると、小山社長は著書で以下のように述べている。

 「朝礼」で経営計画書の方針を強制的に読ませています。しかも読む項目を決めておかないと、社員は「短いところ」ばかり読むので、「今日は、どこを読むか」をあらかじめ決めています。(著書『新版 経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』より)

またYouTubeチャンネル「小山昇の実践経営塾」では、自社で実施している「環境整備点検」の様子を公開している。小山氏らが定期的に各事業所を1カ所につき5分程度で巡回し、掃除や整理整頓が行き届いているか、項目に従って「〇」「×」とチェックしていく。

社員と快活にコミュニケーションを取りながら点検を進める小山氏。だが、動かした棚の裏側に小さなホコリが一つ落ちているのを見つけると「おーい!バツ!バツだよ、これ見て」と社員を呼び出し、タブレット端末に評価を反映させた。この環境整備の出来は社員の賞与に反映されるため、みな真剣に取り組んでいる様子が画面越しにも伝わってくる。

■行き過ぎた「環境整備」

前述の通り、ビッグモーターでも環境整備点検を導入していた。調査委の報告書には「工場従業員らが本来の業務である車両修理作業をそっちのけにしながら、場合によっては数日をかけて清掃や整理整頓等を行っていた」とある。店に面した道路に1本の雑草が残っていることすら許されないほど、異常なまでの徹底ぶりだった。このために社員が長時間のサービス残業を強いられ、度重なる理不尽な降格人事の原因にもなったことは、すでに報道されている通りだ。

また、ビッグモーターの経営計画書にある「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある人」「今、すぐ辞めてください」という文言も、世間から批判を浴びた。小山氏は著書などで「社員の能力以上に会社の価値観に合うかどうかを重視している」と繰り返し述べており、これに兼重前社長ら経営陣が影響を受け、極端な表現に言い換えた可能性はある。

小山氏の掲げる経営理念やノウハウが、多くの中小企業の業績向上に寄与したことは紛れもない事実だ。その内容を都合よく解釈し、異常なまでの管理体制を敷いて「不条理な上命不服を強いる企業風土」(調査委の報告書より)を形成したビッグモーター経営陣の責任は重い。次期社長の和泉氏は会見で「経営陣が現場目線になり、風の通しの良い職場環境を作っていく」と述べたが、本当に実現に至るのかが注目される。

(まいどなニュース・小森 有喜)

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