中国の経済的威圧…影響は限定的? オーストラリア、台湾の先例から日本が推察できること

8月1日から中国がガリウム・ゲルマニウムの輸出規制の乗り出し、日本企業の間でも今後の中国による経済的威圧に心配の声が広がっている。日本側も先端半導体分野で23品目の対中輸出規制に乗り出し、ガリウム・ゲルマニウムの輸出規制はそれへの反発ともいわれる。中国は福島原発処理水の問題に懸念を示し、日本から輸出される水産物や飲料類、菓子類などへの検査も強化しており、日中間でも貿易摩擦が広がる傾向にある。

しかし、欧米や日本などの外資企業の撤退を懸念するとともに、諸外国から信頼される「良い中国」のイメージづくりに気を配っている現在の中国では、過剰な対抗措置を取るのが難しいという背景もある。近年中国が一方的に行ってきた経済的威圧による影響は、相手国に対して限定的なものとなっており、日本企業はそれほど心配する状況にはないだろう。

その根拠の1つが、オーストラリアだ。新型コロナの真相究明やウイグル人権問題、中国による南太平洋での覇権などを巡り、近年両国関係は悪化し、中国は対抗措置としてオーストラリア産の牛肉やワインなど特産品の輸入を突如ストップした。

しかし、最近、現地メディアが明らかにした分析によると、中国によるオーストラリア産品目の輸入禁止による影響は、オーストラリアの国内総生産GDPをわずか0.009%減少させたに留まり、一部の生産者や企業に打撃となったが、経済全体への影響は実質ゼロに近いと発表した。オーストラリアのGDPが2兆5000億豪ドルあまりで、中国による輸入停止による損害は2億2500万豪ドルあまりだったという。

また、中国向けの輸出ができなくなり、経済的な損失が出たものの、価格が下がったオーストラリア産品目を求めて他の国々からの需要がむしろ増大し、その損失を補完できるようになった。

たとえば、中国向けの石炭が輸出できなくなった一方、日本が中国に取って変わり、オーストラリア側は中国に輸出できなくなっても有力な代替国が多くあり、むしろ新たなサプライチェーンの強化に繋がると強気の姿勢だ。

そして、これは台湾も同じだ。中台関係が冷え込む中、中国は同様に台湾へ経済的威圧を強めた。蔡英文政権への不満を強める中国は、これまでに台湾産パイナップルや柑橘類、高級魚ハタなどを衛生上問題があるとして輸入をストップさせた。

しかし、台湾側が明らかにした統計によると、中国が一昨年輸入を禁止した台湾産パイナップルの日本向け輸出量がこの2年間で8倍以上に増加したという。中国による輸入停止以前の2020年、日本向けは約2千トンだったが、2021年には日本向けが約1万8千トンになり、去年も約1万7500トンとなり、現在日本が最大の輸出先になっているという。

中国が輸入禁止対象とするのは、中国国内でも生産できる製品で、半導体など代替調達先が難しい品目は禁止対象になっていない。経済的威圧を仕掛ける中国だが、何が何でも禁止にできるほど政治的、経済的余裕はなく、対抗措置を取る際は十分に検討し、自ら仕掛けた貿易規制が返って過剰な損害として跳ね返って来ないよう懸念している。

こういった実際に経済的威圧を受けた国々のケースは、日本経済、日本企業にとっても1つのバロメーターとなろう。無論、台湾有事になれば話は別となり、中国が国によって対抗手段を変え、影響を受ける業種や業界も変わってくる。

しかし、中国が過剰な対抗措置を取りにくい事情も考慮すれば、日本企業は過剰に心配する必要はないだろう。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス