公園でひとりぼっちのエゾヒグマの子→衰弱していたので「生きてはいけない」と保護 受け入れた動物園の園長「可愛いが、そこにある真の姿を見て」

クマが市街地に出没するニュースが連日伝えられる中、北海道砂川市の公園にひとりぼっちで出没したエゾヒグマの子グマが衰弱。保護された後、旭山動物園(旭川市)に引き取られました。展示場に出始めるとSNSでは「かわいい!」と早速、話題になっています。

同園は今月1日、開園記念日のインスタライブで、この子グマをはじめ、保護されて動物園で飼育される野生動物を通して、「人と野生動物の共存」について考えてほしい、とテーマに掲げました。ライブ配信で思いを語った坂東元(げん)園長に詳しく聞きました。

-保護され、動物園へ

「相談があり、園内で協議、緊急性があるとして受け入れを決めました。保護個体と関わるのは4頭目で、それほどあることではありません。ヒグマ収容数に余裕があったため、傷病鳥獣保護としての受け入れです。なぜ母グマとはぐれたのか理由は分かりません。何かに驚いて遠くへ逃げてしまったのかもしれません。野生下では育児放棄も、特に若い母グマにはよくあることです」

-とても痩せていたと

「まだ母乳をもらう時期で、今年生まれた子グマとしてはかなり小さめでした。オスです。公園にあるエゾヤマザクラのサクランボを食べながら、何日もひとりで飢えをしのいでいたんですね。今は固いものも食べるようになり、順調に回復しています」

-駆除ではなかった

「エゾヒグマの生息数は1万数千頭。昨年は1000頭は駆除されています。理由は2通り。『人の生活圏に出てきて人の生活が脅かされる』、または『農作物への被害』です。この子グマは親とはぐれ、かなり衰弱していて簡単に人に捕まるくらいで、害獣ではありませんでした。でも、回復しても放す場所はないです。もし放したとしてもまた出てきたら、『親グマがいるかもしれない』と警戒して、その場所はまた封鎖せざるを得ません。放せない、引き受け先がない、となれば、駆除でしょう。この子グマが生きる場所は自然の中にはもうありません」

-SNSで「かわいい」と話題に

「確かにかわいらしいですよね。でも、前段を知らずに見て、ただただ『かわいい子グマちゃん』では、私たちが伝えたいこととは違います。ネットの良い面、悪い面ですね。しっかり伝える時間が必要だと感じ、配信テーマにしました。これからもガイド、掲示物で伝えていきます」

-保護された良かった、人気者に、ではないと

「来たから見てね、は違います。エゾヒグマは“北海道の大地の子”であり、このような野生動物がいることは北海道の自慢ですが、なぜ保護されて動物園にいるのか。見る人が自分事として考えるきっかけになればと思います。母グマを駆除された『とんこ』も、他の道産の動物もほとんどが保護です」

ー「自分事」とは

「人間の側が考えて行動し、クマを人里に近づかせないことはできます。人と味覚が似ていて甘いものが大好きで、缶ジュースに残る数滴を味わってしまうと、それを求めて缶を探しに来てしまう。クマのエサになる実のなる木は植えないとか、クマが関心を持たない環境を人間がつくらないといけないのです」 

目をキョロキョロさせ、表情豊かな子グマ。「最初は隅っこにいて、殻に閉じこもっているみたいでした。精神的な部分で心が閉じてしまわないよう注意して飼育していきたい。体は成長できても、生き物としての感情の交わし方、当たり前のことができないと、将来ほかの個体と一緒にできないクマになってしまう」と坂東園長は話しています。

「クマの成長はゆっくりで、1歳でも意外と小さいと感じると思います。この子グマを見ながら野生のクマのニュースを見ると、また違った視点で考えることができるのでは。どうしたら共存できるのか、自分には何ができるのかを考えるきっかけにしてほしい。私たちは動物たちのメッセージをしっかり伝える動物園でありたいと思っています」

(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)

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