沖縄県知事の訪中…なぜ中国はここまで歓迎したのか 沖縄との関係強化で中国警戒論の弱体化狙う?有識者が分析

近年、米中貿易摩擦が拡大する中、中国との(経済)切り離しを意味する「デカップリング」という言葉が頻繁に使われるが、中国は海洋覇権を強化するにあたり、沖縄と日本とのデカップリングを進めようとしている。

沖縄の玉城デニー知事は7月3日から7日にかけて中国を訪問した。玉城知事は日本の財界人とともに北京を訪れ、習近平国家主席の側近である李強首相と会談し、中国と沖縄の直行便の早期再開や経済交流の活発化などで認識を共有した。また、玉城知事は台湾と海峡を挟んで隣接する中国福建省を訪れ、省や市の幹部らと相次いで会談。経済や文化の交流を促進していくことで一致した。

玉城沖縄知事の訪問に対しては、日本国内からも「県の知事がここまでしていいのか」「なぜ尖閣諸島の問題一切に言及しない」など批判の声が少なくないが、なぜ中国はここまで玉城知事の訪中を歓迎したのか。そこには、海洋軍事戦略を着実に進めたい中国側の狙いがあるように感じられる。

習近平国家主席は7月に入り、台湾作戦を担う東部戦区の軍事施設を訪問。中国の安全を巡る情勢は不確実性と不透明性が増大しており、戦争に備えた任務の新局面を切り開くよう努めなければならない、と兵士らに作戦遂行能力を高めるよう命じた。

習氏の台湾統一に向けての野望は昔に遡る。実は、習国家主席は長年福建省で勤務し、その際に台湾統一への想いを持ち始め、沖縄からの訪問団との交流を深めるなど、今日の中国による海洋軍事戦略はそのまま習国家主席の脳裏に描かれる。

そして、台湾統一に向けたプロセスの中、中国は当然軍事侵攻というケースも想定し、今日あらゆる工作活動を立案、実行に移しているはずだ。そのひとつが今回の沖縄知事との関係強化である。

玉城知事は以前から過剰な基地負担の軽減を主張しているが、それには日本国内でも支持する声が少なくない一方、米軍基地の軽減は中国に利することになる。中国が台湾有事の際、最も警戒しているのは在沖縄米軍の関与であり、今日も米軍の対応能力を注視している。

要は、米軍に中国軍の軍事侵攻を制御できる能力はないと中国が判断した場合、台湾有事のリスクは飛躍的にアップすることになる。そして、玉城氏の基地負担軽減の要求によって、今後在沖縄米軍のプレゼンスが沖縄本島から縮小するようなことがあれば、中国側にとってこれほど好都合なことはないだろう。よって、それを主張する玉城知事と関係を密にしておきたいのが中国側の本音だ。

また、中国側には沖縄と経済や文化を中心に関係を強化することで、沖縄における中国警戒論を弱体化させ、沖縄周辺海域、そこを通過した西太平洋での海洋覇権活動を活発化させたい狙いもあろう。尖閣諸島での中国船による領海侵犯でも、「日本国民はそれに懸念しているが“琉球市民”はそれほど懸念していない」といわんばかりなシナリオを中国側は想定しているはずだ。台湾統一や海洋覇権を今後も進める中、中国にとっての沖縄の利用価値は極めて大きい。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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