韓国世論を二分するBTSの兵役問題、ソウル市民に聞いてみた 「入隊すべき」がやや優勢か

 韓国が誇る世界的な音楽グループ「BTS」の兵役を巡って韓国の世論が真っ二つに割れている。主要な調査では「韓国軍に入隊すべき」が「免除の特例を与えるべき」を上回っているが、その差はわずか。グループの動向が株価まで左右するほどの存在感。一時は政府主導の世論調査を実施することになったが、批判が殺到したことから撤回する事態にもなった。長年もめ続けているこの問題。現地で市民の生の声を聞いた。

 韓国は徴兵制を設けており、兵役は健康な成年男子に課せられた国民の義務となっている。期間は18カ月から2年。基本的には18歳から28歳までに陸海空などの軍に入隊しなければならない。ソウル在住で知り合いのスポーツ記者(40代男性)が言う。

 「兵役は非常にデリケートな問題です。2年近く軍隊に行くことは頭の中では分かっていても、いざとなるとつらいです。徴兵制がない国の人には理解しづらいと思います」

 一方で、免除となる特例制度があり、スポーツ分野では五輪メダル獲得もしくはアジア大会優勝がご褒美の条件。芸術分野では国内外の権威あるコンクールの入賞者に認められる。野球で言えば、韓国人初のメジャーリーガー、朴賛浩(パク・チャンホ)をはじめ、元阪神の呉昇桓(オ・スンファン)や元オリックス、ソフトバンクの李大浩(イ・デホ)らがその恩恵に預かっている。もちろん、サッカー選手しかり。

 この特例制度は正確には「免除」ではなく、兵役に就かない代わりに「4週間の基礎軍事訓練とスポーツ奉仕活動」をしなければならないとある。しかし、旬の時期を迎えているアスリートにとってはブランクの期間が短くなるのはありがたいことだ。

 しかし、商業的な要素が強い歌手や俳優などはいままで、特例の対象になってこなかった。いま韓国国内で注目を集めているBTSも、現時点ではその範囲で収まっている。スポーツ紙記者が続ける。

 「BTSは同じ芸術のカテゴリーだが、エンターテインメントのシステムから生まれたグループ。努力と才能でここまで来たのは素晴らしいことだと思うが、ビジネス色が強い。なので枠が違うという考え方がある。しかし、アメリカのビルボードチャートの1位になったり、国連に呼ばれ、人権問題や環境問題に提言するなんて、いままでなかったこと。過去に兵役を免除された人たち以上の功績を残し、国に貢献しているという見方もある。判断はとても難しい」

■「愛国心があるなら兵役に行くべき」

 そこで、市民の声を聞いてみた。団体職員(30代男性)は「兵役に行くべきだ」と即答した。

 「ひとつの理由として彼らはいまグループとしての活動をしてない。兵役は憲法で定められたルールで兵役を免除される基準もハッキリしている。世界的に活躍している音楽グループだが、いまのルールでは立場は一般人だと思う。それなのに政府国民にアンケートを取るというのはおかしい。私は1年9カ月兵役を受け、たくさんの仲間もできた。愛国心があるなら兵役に行くべきだと、と思う」

 続いては、地下鉄のホームで会ったソウル大学の大学院生(20代男性)に聞いてみた。

 「免除されてもいいぐらい世界的な活躍をしたと思う。ショパンのコンクール1位とビルボード1位を比べることはできないが、その貢献を認めるべきではないでしょうか。僕は兵役に行ったけれど、これから行こうとする後輩に勧めるかと言われると、答えはノーです。他の国のように軍隊は職業にすることが望ましい」

 兵役問題は多岐にわたっており、男女間や世代間でも思いが異なる。40代の男性がこんな話をしてくれた。

 「兵役は大学1年生が終わってから2年間行って、復学するのがパターン。合計で3年休む人も多く、その間に女の子はストレートに卒業して、給料をもらえる。そんなことから一時は兵役を務めた男子に、その代償として公務員試験の点数を加算することもあったんですが、女性陣の反発があって、いまはなくなった。男女平等というのなら女性も兵役へ、と思わないこともない。若者の人口が減っている中、兵役のシステムや特例を含めたルールづくりを考え直してもいいと思う」

 先ほど、世代間でも思いが違うと話した。では、50代はこのBTS問題をどうとらえているのか。知り合い会社員に聞いた。

 「貧乏な時代はスポーツが国威発揚とか国民の士気を高める上で一定の意義はあったと思うし、兵役免除の制度も機能していたと思う。ただし、いまの韓国の若者はスポーツができる人がえらいの、と疑問に思っている。いろんな人によって世の中は成り立っているのに、特別視するのはおかしいという考えは分からないでもないです。一方でBTSのようなグループは過去にいなかった。制度をしっかり整えた方がいいとも思うが、現時点での私は消極的に兵役免除に反対です」

 兵役問題について意見が対立するのは大統領選などの政治に利用されてきた背景もある。別の50代男性からはこんな指摘があった。

 「われわれのころの1カ月の小遣いは物価も安かったから700円ぐらいだった。それがいまでは5万円~6万円出ている。それをもっと上げようとのことだが、若者の支持を得たいだけの政策としか思えない」

 政治的と言えば、韓国は現在、2030年のプサン万博の誘致に力を入れており、サムソン電子やSKグループなどの財閥も本腰を入れているとのこと。スポーツ紙記者は「BTSのメンバーの中にプサン出身者がいることもあり、PR活動にひと役買ってもらおうという思惑が見え隠れする」とも話した。

 そのBTSは6月14日からグループとしての活動を縮小しており、メンバー最年長のJINが入隊するまでのタイムリミットは3カ月を切ろうとしている。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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